麻疹IgG抗体のavidity測定の臨床的意義

(Vol.25 p 74-75)

病原体が感染することにより、B細胞より産生される抗体は、初感染急性期から時間の経過によってその性質を変化させる。一般にIgMからIgGへのクラススイッチで知られているが、IgG抗体においても、特異抗原との結合力(アビディティー、avidity)が時間とともに変化する。初感染の場合には、avidityは急性期には弱く、時間経過とともに一方向性に強く増強していき、さらにこれが免疫記憶として残る。従って、再感染の場合には、感染初期から結合性の強いIgG抗体が産生される。これを利用したavidity測定は、IgG抗体を質的に測定、評価することにより、免疫学的な一次応答、二次応答の鑑別ができるという臨床的、疫学的な意義をもつ。

麻疹におけるIgG抗体のavidity検査の目的

近年、中高生、大学生などの若年成人層を中心とする麻疹が増加傾向にある。これらの原因の解析には、母子手帳によるワクチン接種歴の確認とともに、血清学的検査による初感染(一次ワクチン効果不全PVFを含む)と二次性ワクチン効果不全(SVF)患者の鑑別が必要となる。そこでまず、麻疹IgG抗体について、avidityの違いを区別する方法を確立した。次に、それを用いて若年成人麻疹患者を初感染とSVFとに区別し、SVF症例の臨床症状、免疫抑制などの病態を初感染と比較しながら明らかにするとともに、SVF 患者から他者へのウイルス伝播の可能性を検証した。

麻疹のIgG avidity検査方法

麻疹IgG avidity測定には、既報の風疹ウイルスIgG avidity測定法を応用した1, 2) 。ELISAにおいて、抗原抗体反応後に尿素を加えて洗浄バッファーで低avidity抗体を洗いさり、残った高avidity抗体を定量する。尿素を加えない場合の値と比較して、百分率(avidity index)で表示した。

図1に、同一人の初感染の成人麻疹患者における、急性期から 125日目までの血清PA抗体価、およびそのIgG 抗体のavidityの変化について、さまざまな濃度の尿素処理を行った前後のELISA法による結果を示す。市販のELISA麻疹抗体価測定キット(デンカ生研)を用い、同一の検体を2組用意し、一方は通常の方法で吸光度を測定し、他方はさまざまな濃度の尿素を洗浄液に加えて、5分間3回洗浄した後の吸光度を測定した。両者の吸光度の比率を%で表示した。その結果、6mol/lの尿素で5分間3回洗浄する条件が最適と判断された。一方、市販のELISAキットエンザイグノスト(DadeBehring)を用いた測定では8mol/lの尿素で5分間3回の洗浄をした方法が用いられている3)。このように、avidityの検査は、使用するELISAのキットの違いによっても若干条件が異なるため、各研究室で事前の予備実験による条件設定が必要である。

初感染麻疹患者では、急性期にはavidity indexは20%未満の低値を示すが、その数日後から上昇しはじめ、30病日以後で約30%まで徐々に高値へと移行し、60日後には50%以上を示した。一方、予め免疫記憶のある場合には、初期から50%前後の高値を示す。この結果、病初期におけるIgG avidityを測定することにより、初感染とSVFを鑑別できることが示された。

そこで、青年から若年成人層における麻疹患者について、第30病日までの血清IgG抗体のavidityを測定することにより、初感染と再感染に分け、母子手帳に記載されたワクチン接種歴と比較した。2002(平成14)年3月より北茨城市と取手市において起こった麻疹流行における麻疹患者(13歳以上30名)をワクチン接種歴の有無により2群に分け、avidity との関係を比較した(表1)。ワクチン接種歴をもつ患者19名の中で、免疫記憶を欠如したSVFは16例であったのに対し、ワクチン接種歴の無い患者11名は、全員が初感染パターンを示した。

初感染患者とSVFにおける血清抗体価とavidityの時間経過、末梢血リンパ球の減少とその回復過程、ウイルス遺伝子の消長および臨床症状を比較検討した。SVFでも急性期にはIgM抗体が初感染時と同様に上昇するために、初感染との鑑別はできない。しかし、発疹出現初期から高いavidityを持つ高いIgG 抗体価が検出されるので、初感染との区別が可能であった(表2)。

中高生世代のSVFにおいては、ワクチン接種歴のない同年代の初感染患者に比較して、ウイルス遺伝子の検出期間、リンパ球減少症、サイトカイン異常値、免疫抑制の持続期間・程度は軽度に留まり、臨床症状の軽い修飾麻疹がほとんどであった。これに対して、成人のSVF症例では、軽症化傾向を示す症例から初感染と同程度に重症化するものまで多岐に及んだ。

ワクチン接種後数年〜十数年して起こるSVF の防止には、小児期におけるワクチン接種の徹底に加えて、遅くとも中学入学以前にワクチンの追加接種を行って、感染防御免疫を高く且つ長期的に維持する必要があると考えられる。このavidityの検査結果によって、麻疹のSVF発生の実態と病態が明確になったので、今後は、麻疹の接種時期、ワクチン株など、安全性、有効性を検証し、麻疹ワクチン追加接種方法の確立を進めることが急務である。

文 献
1) Inouye S., et al., J. Clin. Microbiol. 20: 525-529, 1984
2)干場 勉, 他, 日本産科婦人科学会雑誌 45: 1389-1393, 1993
3)斉加志津子, 他, 感染症学雑誌 77: 809-814, 2003

国立感染症研究所ウイルス第3部第3室 岡田晴恵

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