2004年1月17日に、ロイヤルパークホテル(東京箱崎)で、日本小児科学会、米国小児科学会、韓国小児科学会、中国小児科学会の共催で国際麻疹フォーラムが行われた。以下その概要を紹介する。
午前中は、座長や演者が参加した意見交換会が行われ、国内の麻疹対策の現状や問題点が話し合われた。Dr. S. Katz(Duke 大学, USA)から、「麻疹 何故、どのように、ワクチンが発達したのか」というテーマで、臨床、疫学、合併症、ウイルス学的知見、ワクチン(歴史、開発、副反応)について講演があった。
麻疹対策について参加国からこれまでの取り組みや現状、今後の課題について発表があった。日本からは、多屋馨子(国立感染症研究所・感染症情報センター)が国内の麻疹の現状として、近年の感染症発生動向調査や感染症流行予測調査事業の結果について、細矢光亮先生(福島県立医科大学)から日本小児科学会での麻疹への取り組みについて、高山直秀先生(東京都立駒込病院)から厚生労働省厚生科学研究での麻疹研究班のまとめについて、富樫武弘先生(札幌市立札幌病院)から北海道全域での麻疹対策の取り組みについて、森(国立感染症研究所・実地疫学専門家養成コースFETP-J)から国内における麻疹の集団発生に対するFETP(実地疫学調査研修プログラム)の活動について発表が行われた。
近年の麻疹対策の充実により、小児科定点医療機関からの麻疹患者の報告数は2001年の33,812から2003年の8,286に減少している。各地、各方面での麻疹ワクチンの接種率向上に向けての活動や臨床、基礎、疫学での研究の進展が大きく寄与していると考えられる。1歳代でのワクチン接種を積極的に行うことで乳幼児の罹患者を減少させることが第1の目標である。また、定期接種対象年齢を過ぎた学童生徒に対する対策の充実と、接種したにもかかわらず罹患した者への対策が今後の課題である。麻疹の罹患者を減らし、さらにゼロに近づけるためには、患者発生とワクチン接種率に関する有効なサーベイランスと集団発生のコントロールが重要であり、これらの対策を国や地域において各方面の関係者がさらに協力して推進していくことが必要である。
中国からDr. Wang Zhao(中国小児科学会)が、中国ではまだ限定的ではあるが、麻疹対策プログラムを強力に推進していこうという動きが活発になりつつあるとの発表があった。
韓国からは、Dr. J.K. Lee(韓国 CDC)が韓国における麻疹対策の経験を発表した。韓国では麻疹ワクチンの2回接種法を導入したが、その後2000年に全国規模の流行的発生が見られた。2001年に全国でcatch-up campaignを行い患者の報告は減少した。その後elimination(排除)を目標とした積極的な対策が取られ、小学校入学時の接種義務が導入されるなどして2回接種での接種率の向上が図られた。2002年と2003年の報告数は 152例と47例であり、対策は成功に向かっている。
米国からは、Dr. W. Orenstein(米国 CDC)が、米国での麻疹対策が現在のeliminationの状態に至るまでの経験と現状を発表した。米国は今でこそ年間数10例単位の発生で、しかもそのほとんどが輸入例(そのトップが日本)であるが、過去に3回のeliminationに挑戦した上で現在の段階に至ったのものであった。学校での麻疹対策が成功の大きな役割を担ったことが印象的であった。
WHOの米大陸地域(PAHO)からは、Dr. C. DeQuadros(PAHO)が地域における経験と現状について発表した。1980〜90年代にかけて行った有効なサーベイランスとcatch-up campaignが奏功して、2000年に入り土着の麻疹ウイルスの伝播が無くなったという。しかし、日本などの他国からの輸入例がここでも問題になっている。
西太平洋地域や東南アジアでの麻疹対策はさらに重点的に行わなければならない。発展途上国では小児の死亡原因として麻疹の公衆衛生学的な問題は大きいためにすべての子どもに接種機会を与えるべきであり、また、先進国では麻疹は早急にeliminationの段階を目指して対策するべきであると意見が出された。アジア地域での麻疹対策には、日本の対策が進むことが重要である。また同時に、アジア諸国と連携し対策を進めるべきである、とまとめられた。
国立感染症研究所・実地疫学専門家養成コース(FETP-J) 森 伸生
国立感染症研究所・感染症情報センター 多屋馨子 岡部信彦