本市において、市内の一洋菓子店で購入した洋生菓子を原因食とするSalmonella Enteritidis(S . E)による大規模食中毒が発生したので、その概要を報告する。
患者発生状況:患者は2003年7月4日〜12日までに発生し386名におよび、年齢は1歳〜70代と幅広い年齢層にわたった。患者は7月3日〜9日までに製造された洋生菓子を喫食しており、なかでも7月5日〜7日の製造品を喫食して発症したものが352名(91%)を占めた。患者の多くはシュークリームを喫食し、その他カスタードクリームおよび生クリームを使用した洋生菓子を喫食していた。
検査結果:当該店で保管の洋菓子類および原材料32検体、患者宅残品8検体、施設スワブ30検体、患者便44検体、従事者便11検体について検査した。患者宅残品ではシュークリーム7検体中6検体、カスタードクリームを使用したケーキ1検体からS . Eを検出した。残品シュークリーム中のS . E菌数は、冷蔵保存されていたものは103/gオーダー、室温放置されていたものは104-5/gオーダーであった。また、患者22名、従事者1名からS . Eを検出したが、保管中の食品およびスワブからは検出しなかった。
S . E分離株78株(他機関で分離された株を含む)は14薬剤に対する感受性試験で、ABPC、TMP、SXTに対して耐性を示した。このうち22株について国立感染症研究所・細菌第一部にファージ型別を依頼した結果は、すべて5cであった。またBln Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析を行った結果は、従事者株と患者株および残品株はすべて同一像を示した(図1)。
これらの疫学解析および聞き取り調査の結果から、S . E分離株は同一系統の株であると考えられ、本事例はクリーム類を主原因食品としたS . E食中毒であると断定された。
クリーム類汚染の明確な原因は不明であるが、原材料の汚染の可能性や、S . Eが検出された従事者がクリーム類製造の専従者であり、手指や使用器具の洗浄・消毒が不十分であったことから、この従事者の手指を介してのS . E汚染の可能性が考えられた。
初発の患者は7月3日の製造品を喫食していた。それ以降も患者の発生が続いたのは、汚染クリーム類の翌日持ち越しが続いたこと、また、使い捨て絞り袋を口金を付けたまま簡単に洗浄後再使用しており、新たにクリームを調製した際も汚染が続いた可能性などが考えられた。加えて、5日〜7日の製造品を喫食した客に患者が集中したのは、製造が平日の倍程度となる週末であったため、前述の条件に加えてクリーム類が常温に長時間放置されていたことが大きな要因と考えられる。このような種々の要因から汚染の継続がおこり、今回のような大規模な食中毒事例に至ったものと思われた。
広島市衛生研究所
橋渡佳子 下村 佳 古田喜美 毛利好江 佐々木敏之 石村勝之 萱島隆之
河本秀一 平崎和孝 荻野武雄
広島市保健所