給食施設における毒素原性大腸菌O169:H41の集団食中毒事例−広島市

(Vol.25 p 80-81)

2003(平成15)年7月、市内の社員専用給食施設において患者数164名のST(耐熱性エンテロトキシン)産生性毒素原性大腸菌O169:H41の集団食中毒が発生したので、概略を報告する。

発生状況:7月21日午後6時頃、給食施設から広島市保健所に7月15日、7月16日にかけて150名の社員が下痢、腹痛等の食中毒症状を呈しているとの連絡が入り、調査が開始された。患者は7月14日〜7月23日にわたって164名発生(死者0)していたが、7月15日に40名、7月16日に73名、7月17日に29名で、この3日間で142名(87%)と集中していた。症状は下痢(160名)、腹痛(121名)、倦怠感(41名)、嘔気(37名)等が多かった。患者の共通食は当該給食施設で利用された昼食に限られ、患者が多発した7月15日前の7月13日、14日の昼食が疑われた。

検査結果:7月21日から広島市衛生研究所に検体が搬入され、サルモネラ、腸炎ビブリオ、ウェルシュ菌、病原大腸菌、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、セレウス菌等の検査を開始した。検体は患者便25検体、検食(7月12日〜7月16日調理品)22検体、ウォータークーラー水1検体,調理器具等のふきとり9検体、給食従事者便8検体の計65検体であった。検査の結果、患者便22検体からST産生性毒素原性大腸菌O169:H41を検出し、原因菌と考えられた。一方、7月14日の検食の切り昆布サラダ、ウォータークーラーの注水口付近のふきとり,給食従事者2名からも同菌を検出した。食品やふきとりの病原性大腸菌検査法はバッファード・ペプトン・ウォーターで35℃、一夜前増菌培養し、その培養液1mlをGN培地で35℃、一夜培養とEC培地で42℃、一夜培養する2種類の増菌培養を行い、PCR でST産生遺伝子の有無を確認した後、一白金耳量をDHL平板培地に塗布し、培養した。大腸菌が疑われるコロニーをTSI、LIM培地で性状確認し、O169抗血清で凝集の認められる菌株についてPCRでST産生遺伝子の保有を確認した。同様の手順で行ったPCR-MPN法によると、保存検食の切り昆布サラダの原因菌最確数は30/100g未満の低菌量であった。

ST産生性毒素原性大腸菌O169:H41が検出された患者22名、従事者2名、切り昆布サラダ、ウォータークーラーの注水口付近のふきとり由来の26菌株について比較解析を行った。ストレプトマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、アンピシリン、ナリジクス酸、クロラムフェニコールの6薬剤での感受性試験ではすべてテトラサイクリン耐性を示し、PCRによるST産生遺伝子の型別ではすべてSTp遺伝子であった。制限酵素Bln I、Xba Iでのパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)でも同一の泳動像(図1)を示しており、これらは同一株と考えられた。

以上の疫学調査や食中毒原因菌検査から、7月14日に提供された切り昆布サラダが原因食品と断定されたが、原因菌の混入経路は特定できなかった。原料には切り昆布、大根、人参、キャベツ、サニーレタス、卵、ドレッシングが使用され、加熱工程がなく原料由来の可能性が考えられたが、洗浄過程や調理中でのシンクや床等からの汚染、あるいは保菌給食従事者からの汚染の可能性も考えられた。一方、ウォータークーラーや調理等の使用水は水道水をいったん貯水槽に貯水されたものであるが、残留塩素が0.4ppmあることが週に1回確認されており、使用水が汚染されていた可能性は低いと考えられた。ウォータークーラー水を飲まないで発症した人もおり、ウォータークーラー注水口付近の汚染は二次的なものと考えられた。

広島市衛生研究所
佐々木敏之 石村勝之 下村 佳 古田喜美 橋渡佳子 毛利好江 萱島隆之 河本秀一 平崎和孝 荻野武雄
広島市保健所

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