インフルエンザ脳症と診断された患児から分離された AH3型インフルエンザウイルスおよび患児の治療について−大阪

(Vol.25 p 77-78)

患児は1歳7カ月の男児であり、2004(平成16)年1月22日に40℃の発熱があり、近医を受診した。翌日より痙攣を伴い、意識レベルも低下した。インフルエンザ迅速診断キットでA型抗原陽性反応を示し、インフルエンザ脳症が疑われ転院した。急激な臨床症状などからインフルエンザ脳症と考え、直ちに治療を開始したが、1月25日に永眠した。本年度インフルエンザワクチン接種は受けていなかった。

1月23日〜24日にかけて採取された鼻汁、髄液、血液についてMDCK細胞にてウイルス分離を行った。鼻汁では顕著なCPEを示したが、髄液および血液は示さなかった。鼻汁からの培養液について、国立感染症研究所から分与された2003/04シーズン用インフルエンザウイルス同定キットでのHI試験(0.75%モルモット赤血球使用)を行った。その結果、抗A/Moscow/13/98(H1N1)血清、抗A/New Caledonia/20/99(H1N1)血清、抗B/Shandong(山東)/07/97血清および抗B/Johannesburg/05/99血清(ホモ価はそれぞれ 1,280、 320、40、 640)に対しては、いずれもHI価<10であったが、抗A/Panama/2007/99 (H3N2)血清および抗A/Kumamoto(熊本)/102/2002(H3N2)血清(ホモ価いずれも 2,560)に対しては、それぞれHI価 320および 1,280を示した。この結果から、今回患児から分離されたインフルエンザウイルスは AH3型であると同定された。なお、髄液および血液のRT-PCR法での検査は陰性であった。

当院入院時、意識状態は昏睡で、血圧測定困難であった。検査ではAST 211IU/ml、LDH 1,594IU/ml、CK 388IU/ml、クレアチニン 0.3mg/dl、血小板数正常、頭部CTでは脳浮腫はないと判断された。治療は、オセルタミビルの投与、脳圧モニター、低体温療法、ペントバルビタール投与、インフルエンザ脳炎・脳症研究会(代表 森島恒雄・岡山大学教授)治療プロトコール(γグロブリン・ステロイドパルス・AT-III・シクロスポリン)に従って開始した。また、ノルアドレナリン 0.4〜 0.5γ持続投与にて、収縮期血圧は80mmHg前後を維持し、尿量も1ml/kg/h以上を維持していた。脳温は入院時40.5℃であったが、脳圧は治療開始前17mmHg、以降10mmHgを超えなかった。翌日、心室細動が出現し、低体温中止、ノルアドレナリン減量、リドカイン投与にて一時的に軽快したものの反復し、除細動に反応せず、永眠した。

本症例は、痙攣、意識障害で発症したインフルエンザ脳症であるが、本症の死亡例にみられる強い脳浮腫・脳圧亢進は認められず、不整脈が直接的な死因と考えられた。ただし、サイトカインの代理マーカーと考えられる血清ネオプテリン値は 517.4nmol/lと極めて高く、予後不良と判定される濃度であった。インフルエンザ脳症で、早期に死亡する症例にはこのような例が含まれている可能性が考えられる。

大阪市立環境科学研究所 村上 司 改田 厚 入谷展弘 春木孝祐
大阪府立公衆衛生研究所 森川佐依子 加瀬哲男 奥野良信
大阪市立総合医療センター 天羽清子 塩見正司 外川正生 石井武文 林下浩士

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