岡山県における呼吸器系疾患患者の咽頭ぬぐい液からのアデノウイルス(Ad)の分離は、2003年1月〜10月は毎月1、2株程度であったが、11月以降急増して、2004年1月16日までに採取された検体から36株が分離された。分離株はすべてFL細胞で分離されたが、Ad3 の一部はRD-18SやVero細胞でも分離された。血清型は市販(デンカ生研)および感染研分与抗血清による中和試験で同定されたが、いずれも容易に型別可能であった。分離された血清型は、Ad3が32株(89%)と最も多く、Ad1が2株(5.6%)、Ad2とAd7が各1株(2.8%)であった。
Adが分離された患者は、男15例、女21例、年齢は0〜8歳で、3〜5歳が19例と半数を占めていた。臨床診断名は、化膿性扁桃炎が最も多く22例(61%)、次いで咽頭結膜熱11例(31%)であった。主な症状は、上気道炎81%、下気道炎69%、胃腸炎33%、結膜炎28%であった。
Ad感染による呼吸器症状は、通常上気道にとどまり、下気道に及ぶことは少ない1)とされてきたが、今回の流行では下気道炎が70%近く認められた。そこでAd感染の主要症状である上気道炎、下気道炎、胃腸炎、結膜炎の頻度について、今回の36例を、2000年1月〜2002年12月に咽頭ぬぐい液からAdが分離された呼吸器系疾患患者27例と比較した(図)。
上気道炎と胃腸炎については大きな差はみられなかったが、下気道炎の頻度は、2000年〜2002年の事例での3.7%に比べて今回の事例では69%と著しく高く、逆に結膜炎の頻度は、今回の事例では28%で、2000年〜2002年の事例(52%)の約1/2にとどまっていた。以上より、高率に下気道炎を起こすこと、結膜炎の頻度が少ないことが、今回のAd感染による呼吸器系疾患の特徴であった。
今回の患者のほとんどが県南西部の1市3町に集中しており、この地域でAd感染による呼吸器系疾患が流行していたと考えられた。感染症発生動向調査では、咽頭結膜熱以外のAd感染による呼吸器系疾患は調査対象ではないため、県内での患者発生状況は不明である。しかし、2003年には、兵庫県で眼症状のないAdによる扁桃炎の流行2)が、香川県でAd3による肺炎・気管支炎を伴う呼吸器系疾患の流行3)が報告されている。流行時期は1〜4月と両県の方が早いが、いずれも本県の近隣県であり、類似した症状を示すAdによる呼吸器疾患が、かなり広範囲にわたって流行しているものと思われる。
文 献
1)加藤四郎, 岸田綱太郎編, 病原ウイルス学, 金芳堂, p.221, 1989
2)藤本嗣人, 他, IASR 24: 136-137, 2003
3)三木一男, 他, IASR 24: 225, 2003
岡山県環境保健センター
濱野雅子 藤井理津志 葛谷光隆 西島倫子 小倉 肇