多剤耐性Salmonella Typhimuriumによる大規模食中毒

(Vol.25 p 99-100)

2003年9月4日、京都府内の事業所において昼食弁当を食べたものから腹痛、下痢、発熱の症状を呈し、職場を休んでいる者がいるとの報告が所轄の保健所に入った。京都府の調査では弁当は大阪府下の給食会社が配達したことがわかり、翌日、大阪府の食中毒担当の部署に連絡があった。さらに9月9日、大阪市の医療機関から給食弁当を食べ、腹痛、嘔吐、下痢等の食中毒症状を呈した幼稚園児を診察した旨連絡があった。これらの連絡を受けた大阪府は弁当を調製した業者を調べたところ、大阪府豊中市のA給食株式会社であることがわかった。A社は大阪府内をはじめ兵庫県および京都府内の 3,081施設の事業所に一日当たり18,681食、28施設の幼稚園に1,100食の弁当を配達しており、患者数は事業所 144名、幼稚園 214名であった。患者の症状は下痢(99%)、腹痛(83%)、発熱(72%)であった。原因食品としては事業所は9月1日、幼稚園は9月4日に調製した弁当が疑われた。

大阪府下(大阪市、堺市、東大阪市を除く)の患者のうち、10名について食中毒原因物質の検索を行ったところ、5名からSalmonella Typhimuriumが検出された。また、大阪市、京都府、兵庫県からも患者から同菌型を分離したとの連絡を受けた。一方、A社の弁当の8月27日〜9月2日までの保存食46検体、幼稚園の弁当の9月1日〜9月5日までの保存食40検体、施設のふきとり10検体についてSalmonella の検出を試みたがすべて陰性であった。

患者から分離されたS . Typhimuriumの5株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析を行った。制限酵素Bln IおよびXba Iによる切断パターンを比較したところ、図1に示すように各々の制限酵素ですべての株が同一の泳動パターンを示した。また、12薬剤(ABPC、SM、TC、CTX、KM、CPFX、OFLX、CP、ST、GM、NA、FOM)に対する薬剤感受性試験では5株ともABPC、SM、TC、CPに耐性を示す多剤耐性菌であり、さらに国立感染症研究所にファージ型別を依頼した結果、これらの株はいずれもDT104であることがわかった。

私達はSalmonella 分離株のすべてについてPFGEおよび薬剤感受性試験を継続して実施しているが、その中で2003年7月17日に散発患者から分離され、府下の保健所から同定依頼されたS . TyphimuriumがABPC、SM、TC、CPに耐性の多剤耐性菌で、かつPFGEによる遺伝子解析では前述の大規模食中毒の原因菌と全く同一の泳動パターンを示した。しかしながら、この散発患者と大規模食中毒との関係は不明であった。

大阪府立公衆衛生研究所
塚本定三 田口真澄 神吉政史 川津健太郎 河合高生 依田知子
久米田裕子 浅尾 努 濱野米一 石橋正憲 勢戸和子 小林一寛

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