仕出し弁当が原因と考えられたA群レンサ球菌集団感染事例−千葉県

(Vol.25 p 100-101)

事例の概要:2003年9月14日、船橋市保健所管内の斎場で行われた葬儀出席者のなかに、発熱、倦怠感、咽頭痛、関節痛等の症状を呈している者がいるとの通報があった。保健所が調査を行った結果、(1)同斎場で9日に通夜、10日に告別式を行ったA家葬儀出席者34名中24名(71%)が11日〜12日にかけて発症している。(2)医療機関を受診した発症者は,溶血性レンサ球菌による咽頭炎と診断された。(3)C寿司店の仕出し弁当を利用していた。(4)C寿司店では、事件の数日前から発熱、咽頭痛などの症状を呈する従業員がいたことが明らかとなった。さらに別の葬儀場で9〜10日に行われたB家葬儀出席者がC寿司店の仕出し弁当を喫食し、16名中10名(63%)が同様の症状を呈していることが判明した。

A家が葬儀を行った斎場では当日4件葬儀が行われたが、他の3件はA家と異なる飲食店を利用しており、患者発生は認められなかった。またA家とB家葬儀出席者はC寿司店弁当以外に関連が無かった。A家およびB家に供された料理のメニューを表1に示す。患者の大部分は弁当喫食後1〜2日間に発症していた。以上からC寿司店を原因施設とした食中毒と断定し、2日間の営業停止処分とした。その後の調査で同店弁当を喫食した合計7グループ120名中67名が発症していた。この集団感染事例の原因および他の事例と共通性を検討するため検査を実施した。

検査方法:A家、B家葬儀関係患者咽頭ぬぐい液、うがい液およびC寿司店従業員咽頭ぬぐい液についてA群レンサ球菌検索を行った。患者が喫食した食品残品、参考品等は無く食品の検査は実施できなかった。検査材料をヒツジ血液寒天培地とA群レンサ球菌選択ヒツジ血液寒天培地に接種して、発育したβ溶血集落について群型別、T型別およびアピストレップによる同定を実施した。また発赤毒素遺伝子(SPE)A、B、Cの保有状況をPCRにより検査した。

検査結果:A家、B家葬儀関係患者とC寿司店従業員からの菌分離状況を表2に示す。A家、B家関係患者を含む患者67名の主要症状は、咽頭痛56名(84%)、発熱54名(81%)で、倦怠感37名(55%)、頭痛18名(27%)等であった。弁当喫食後発症するまでの時間は、24時間以内15名(22%)、24〜48時間42名(63%)、48時間以上6名(8.9%)、不明4名(6.0%)であった。A家関係患者7名について検査を行ったが、抗菌薬投与後の検体であり、菌を分離することはできなかった。B家関係患者3名中2名、C寿司店従業員の有症状者7名中7名、無症状者10名中4名からA群レンサ球菌が分離された。さらに、東京都在住のA家関係者由来株3株および群馬県在住のB家関係者由来株3株をそれぞれ東京都健康安全研究センターおよび群馬県衛生環境研究所から分与を受けた。A家関係患者由来3株、B家関係患者由来5株、C店有症状従業員由来7株、C店無症状従業員由来4株について細菌学的検討を行った結果、19株はすべてA群レンサ球菌、T型B3264、SPE B遺伝子単独保有株であった。制限酵素Sma IおよびSfi Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンはすべて一致した。

考察:C寿司店において複数の従業員からA群レンサ球菌が分離されたこと、および咽頭痛等症状を呈する者が多かったことから、従業員間で本菌による咽頭炎流行があったと考えられた。分離された菌株はすべてPFGE泳動パターンが患者由来株と一致したため、食中毒の原因は従業員の健康管理不徹底のため生じた食品への二次汚染であることが推測された。本事例は残品が無いため食品の検査が不可能であったが、疫学調査、従業員の咽頭ぬぐい液からの菌分離、および患者由来株とのPFGE解析により感染経路の推定が可能となった。

千葉県衛生研究所 岸田一則 横山栄二 内村眞佐子
千葉県船橋市保健所
五十嵐直子 曽根睦子 眞壁祐樹 木原栄二 工藤 実 滝口順子
中島広徳 武井則和 草 徹二 高橋紀久夫 佐久間文明

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