市場における輸入アンキモのアニサキス亜科線虫の感染状況

(Vol.25 p 118-119)

近年、埼玉県内市場の仲卸業者から、販売しているアンキモ(アンコウの肝臓)に多数の寄生虫様異物がみられるとの相談が寄せられ、調査の結果、いずれもアニサキス亜科線虫Anisakidae であることが判明した。これまでに、生鮮魚介類の生(なま)食によるアニサキス症は多数報告されているが、アンキモについても北村ら(1997)1)の1症例ではその感染源として推定されている。今後もグルメ志向や通と呼ばれる人達はアンキモを生(なま)や半生で喫食することがあり、本症を起こす可能性が考えられる。そこで、A市場に流通するアンキモに関するアニサキス亜科線虫の感染状況を調査した。

2002(平成14)年12月〜翌2003(平成15)年2月までの3カ月間に調査を行い、検体には中国からの輸入アンキモ13kg(肝臓177個)、ボストン(アメリカ)からの輸入アンキモ6kg(肝臓33個)を用いた。調査方法としては、肝臓1個ずつの重量を測定し、すべてを個別に人工胃液に入れ、消化法により精査した。

調査の結果、中国からの輸入アンキモ177個(13kg)からは、1,442隻の寄生線虫幼虫が検出された。Anisakis simplex がそのなかで最も多く1,303隻(90%)であったが、A. physeteris は4隻(0.3%)、Pseudoterranova decipiens は13隻(0.9%)であった。残りの122隻については、虫体の一部欠損により種の同定はできなかった。また、各寄生線虫幼虫が陽性であったアンキモの数とその検出率は、A. simplex が177個中169個(96%)であり、A. physeteris が177個中1個(0.6%)、P. decipiens が177個中7個(3.9%)であった。

一方、ボストンからの輸入アンキモ33個(6kg)からは、56隻の寄生線虫幼虫が見出された。うちP. decipiens が29隻(52%)と最も多く、次いでA. simplex は19隻(34%)、A. physeteris は2隻(3.6%)と低率であった。残りの6隻については、虫体の一部が欠損していて種の同定はできなかった。また、陽性アンキモの数とその検出率は、A. simplex が33個中13個(39%)、A. physeteris が2個(6.1%)、P. desipiens が2個(6.1%)であった。この結果から、明らかに両地区において寄生虫相が異なることが観察された。

輸入アンキモ1kg当たりの幼虫数は、中国輸入では111隻、ボストン輸入は9隻であった。中国輸入アンキモの重量と検出された全寄生虫数における相関係数は−0.699 (p<0.01)であり、肝重量が小さくなるほどアニサキス亜科の寄生数が多い傾向が示された。逆に、P. decipiens における相関係数は0.663(p<0.01)であり、肝重量が大きくなるほど寄生数が多い傾向が認められた。また、ボストン輸入アンキモの重量と全寄生虫数における相関係数は−0.785(p<0.01)であり、中国輸入アンキモと同様の傾向がみられた。

今回の調査では、中国輸入アンキモから検出された寄生線虫幼虫は、すべて生存が確認され、ボストン輸入アンキモはA. simplex の1隻とP. decipiens を除いてすべて死滅していた。

今回の調査結果から、中国およびボストンからの輸入アンキモにおけるアニサキス類の感染状況が明らかになった。アンキモを喫食する際には、十分に加熱することが重要であると考えられた。また、加熱が不十分な場合や、調理過程において遊出した幼虫がまな板や包丁などの調理器具を介して、刺身等の食品に混入し、それを喫食することによって健康被害を起こす可能性も示唆された。そこで、アンキモを処理する際には、他の食材を近くに置かない、使用した調理器具は、まず熱湯をかけてからよく洗う、または専用の調理器具を使うなど、アニサキス症への予防対策が必要であると思われた。

 文 献
1)北村彰英,他,南大阪医学, 45(1), 1997

さいたま市保健所・市場監視室
坂本千晶 高橋恵理子 清水貴明 松本ちひろ 山田昭夫
埼玉県衛生研究所臨床微生物担当 山本徳栄
国立感染症研究所寄生動物部 影井 昇

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