感染要因が変化してきた沖縄県の広東住血線虫症

(Vol.25 p 120-121)

広東住血線虫(Angiostrongylus cantonensis : Ac )症の感染は、中間宿主や待機宿主等の摂取以外に、感染幼虫によって汚染された野菜、手指、飲料水等を介しての間接的な摂取によって起きることが知られている1)。沖縄県では2000年1月に感染源不明のAc 症が6名発生したが、Ac 症としては症状や免疫学的反応が弱いことから感染幼虫による少数曝露が疑われ、間接的に汚染された野菜を介しての感染が推測されていた2,3)。また1999年12月に沖縄旅行後に京都府で発症した事例は、わが国で初めてのサラダを感染源とするAc症として報告されている4)。これらのことをふまえ沖縄県におけるAc 症の発生状況とサラダ等の野菜を介しての感染の可能性等を検討してきたので、その結果について報告する。

わが国におけるAc 症の発生は52例が報告されているが、そのうち、35例が本県での感染事例であった5)。表1に示すとおり、1990年以前と以後の比較では感染原因不明が4例から12例に増加し、発生時期も4〜11月のアフリカマイマイ(Af )活動期から12〜3月の非活動期へと移行し、Ac 患者発生の背景が変化してきていることが考えられる。

保虫宿主へのAc 感染率は表2に示すように1970年代に比して2000年代(2001〜2003年)の調査では1/2〜 1/4以下に減少していた6)。しかし、今回の調査で初めて確認されたヒラコウラベッコウガイ(Pam 写真)とニューギニアヤリガタリクウズムシ(Pm 写真)への感染率はAf に比して約1.5倍も高くなっていた。Pam については組織切片を作成しアシヒダナメクジ(Va )と比較したところVa Pam ともに体表面下の筋層にAc の寄生部位が確認された。Pam Va に比して筋層が粗であるため、Ac 感染率が高くなり、感染幼虫数も多くなる傾向が見られた。さらにPam では生存中に体外への感染幼虫の遊出も確認された。一方、今回新たに待機宿主として確認されたPm は切断後に感染幼虫の遊出が見られ、さらにPm はキャベツ葉の裏側への付着(写真)が確認されている。このことから、Pm が付着したキャベツがスライサー等でスライスされることで野菜類を汚染することは十分考えられる。今後、Ac 症の疑い例の発生時には、生野菜類を介しての感染者も把握できるよう、これらのことも念頭において問診する必要がある。

 文 献
1)Alicata, J.E. & Jindrak, K., Angiostrongylosis in the Pacific and Southeast Asia. C C Thomas, Springfield. 105pp, 1970
2)佐藤良也, 沖縄医報 36(6): 452-453, 2000
3)當眞 弘・佐藤良也, IASR 22(3): 10-11, 2001
4)服部精策, 他,日本小児科学会誌 105(6): 719-721, 2001
5)吉村堅太郎, IASR 18(5): 8-10, 1997
6)安里龍二, 他, Clin. Parasitol. 14: 90-92, 2003

沖縄県衛生環境研究所
安里龍二 平良勝也 中村正治 久高 潤 糸数清正

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