繰り返し手洗いによる消毒液(塩化ベンザルコニウム)の赤痢菌殺菌効果の減少

(Vol.25 p 124-125)

2002年1月、柏保健所管内の幼稚園において集団赤痢が発生した(本月報Vol.23, 228-229参照)。園児(28名)の発症日は2日間に限定され単一曝露が疑われたが、共通の食事による可能性は否定された。聞き取り調査で、幼稚園児らは逆性石けん液(塩化ベンザルコニウム)を入れた洗面器に手を浸して手指の消毒を行う習慣であることが明らかとなった。幼稚園では、約1,600mlの水道水に10w/v塩化ベンザルコニウム液をキャップ半分〜1杯(2.5〜 5.0ml)加えて消毒液を作製していた。これは有効成分の4,000倍〜 8,000倍液に相当し、常用濃度(有効成分の1,000〜 2,000倍液)以下であった。また、通常は消毒液を途中で作り替えることなく、園児らは午前10時頃〜午後帰る時間まで同じ消毒液を使用していた。そこで、幼稚園で行われていた洗面器内の塩化ベンザルコニウム液による手洗いが感染源となるかどうかを知る目的で、塩化ベンザルコニウムの赤痢菌殺菌効果について検討を行った。

殺菌効果の判定は次のように行った。水道水を用いて塩化ベンザルコニウムを希釈し、幼稚園で使用されていた4,000倍〜32,000倍希釈液を作製した(A)。幼稚園で同じ消毒液を終日使用していた状況を再現するため、ボランティア20人が手洗いした4,000倍希釈塩化ベンザルコニウム液を、別のボランティア20人が手洗いした水で系列希釈し、4,000倍〜32,000倍希釈液を作製した(B)。各希釈塩化ベンザルコニウム液を試験管に取り(3ml)、一夜培養赤痢菌液300μl (2.1X108cfu)を添加して1分、3分、10分および30分後にその10μlをTSB(3ml)に接種し、37℃で一夜培養後菌の発育の有無を肉眼で観察した。Shigella sonnei は本事例患者由来株を使用した。

結果を表1に示す。未使用の塩化ベンザルコニウム液(A)はX4,000(塩化ベンザルコニウム0.025%)およびX8,000(塩化ベンザルコニウム0.0125%)で1分以内に、X16,000では10分で赤痢菌が殺菌された。X32,000では観察を行った30分の間殺菌されなかった。一方20人手洗い後のX4,000塩化ベンザルコニウム液(B)は濁りとともに不溶性物質の沈殿が認められ、X4,000で赤痢菌の殺菌に3〜10分を要し、X8,000では30分を経過しても殺菌効果は認められなかった。

塩化ベンザルコニウム液は有機物の混入による殺菌効果の低下が大きいことが報告されており、dry yeastなど粒状物質は消毒剤を吸着することで殺菌力を低下させると推論されている1)。今回行った実験で、4,000倍希釈塩化ベンザルコニウム液は未使用状態であれば殺菌力はあるが、20人手洗い後では殺菌力が低下しS. sonnei が生残することが示された。もし効力が低下した塩化ベンザルコニウム液にS. sonnei が混入したならば、その中に手を浸した園児が感染する可能性は十分考えられる。当該幼稚園で行われていたベイスン法による消毒は、多くの人が使用すると効力が期待できない。さらに、幼稚園に通う健康な幼児が手指消毒をする必要はなく、保健所は当該幼稚園に対し石けんと流水による手洗いの励行を指導した。

 文 献
1)余 明順,他, 臨床と細菌 11: 205-211, 1984

千葉県衛生研究所 内村眞佐子 日向 瞳
千葉県長生健康福祉センター 加瀬恭子
千葉県習志野健康福祉センター 鷹野サナエ

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