2004年第8週に、秋田県由利地方の患者定点に指定されている医療機関から手足口病の流行が見られるとの報告を受けた。定点医療機関からの手足口病の報告数は、第8週19人、第9週10人、第10週14人、第11週9人、第12週4人で、その後は終息したものの、1カ月間で56人を数えた。同時期に由利地方の他の医療機関でも5名の報告があったが、由利地方以外では特筆すべき流行は認められなかった。年齢別では1〜19歳まで開きがあったが、70%以上が1〜3歳児に集中しており、保育園等での流行も認められた。
病原体を特定するために定点医療機関で患者咽頭ぬぐい液7検体を採取し、HEAJ細胞でウイルス分離を試みたところ、5検体においてエンテロウイルス様のCPEが認められた。これらを中和試験により同定したところ、A群コクサッキーウイルス16型(CA16)と判明した。
この際、同定作業を簡便化する試みとして、CA16とエンテロウイルス71型(EV71)にそれぞれ特異的なプライマーによるRT-PCR(山崎謙治、奥野良信、感染症学雑誌 75(11): 909-915、2001)を用いたところ、5株ともCA16特異的プライマーにのみ反応した。また、当該プライマーは原著では通常のRT-PCRに用いているが、リアルタイムPCR(ロシュ、ライトサイクラー)のSYBR Green I検出系に用いたところ、メルティングカーブ分析で明瞭な単一ピークを形成した(図)。これによって、手足口病と臨床診断された検体からエンテロウイルスを分離した場合には、中和試験の結果を待たなくてもCA16とEV71の鑑別が簡便に行えるものと考えられた。
さらに、5株の5'ノンコーディング領域を増幅した155bpのPCR産物を一本鎖高次構造多型解析(SSCP解析)によって比較したところ、同一のパターンであり、同じ塩基配列のウイルスが流行していたことが示された。
今回の流行は季節的には通常の流行期からは外れており、地域的にも限定されたものであったが、今シーズンの手足口病の流行を予測する上で興味深いものと考えられた。
秋田県衛生科学研究所
斎藤博之 安部真理子 原田誠三郎 八幡裕一郎 笹嶋 肇 鈴木紀行
神坂医院 神坂 陽