国立国際医療センター/エイズ治療・研究開発センターにおけるHIV/AIDS入院患者の変遷

(Vol.25 p 173-174)

はじめに

当センターは1995年からHIV/AIDS患者の入院を受け入れている。1996年に薬害エイズ原告団が国と和解し、恒久対策として1997年4月に当センター内にエイズ治療・研究開発センターが設立、同年10月にはHIV専用の入院病棟が開設され、現在までに全国から多数の患者が入院している。HIV感染症の治療法は、1997年から著しく進歩し、いったん入院患者数、死亡者数が減少したが、最近は、HIV抗体検査受検者数が激減し、AIDSを発症してからの緊急入院や、生活習慣病・肝炎などの合併例や高齢者なども増加している。入院目的や背景が変化し、ケアの内容も複雑になってきているため、当センターの入院患者数の変遷と看護度を調査したので報告する。

<用語の説明>看護度(表1):国立病院・療養所では、患者の看護観察の程度と生活の自由度を掛け合わせて12通りの基準で患者の状態を表している。例えば意識障害があり常に寝たままの状態で、時間ごとにバイタルサインチェックが必要な患者とすれば、看護度はA-Iと表す。患者の状態や安静度の指示が変更になるたびに看護度は変化する。12通りの基準の中で、A-I・A-II・B-Iは看護度が高いことを表し、患者の状態は重く、頻回な看護介入が必要となる。

入院患者数の変遷

対象は、1997年1月〜2003年6月末までの入院のべ1,305件で、入院診療録調査を行った。男性が1,175件(90%)、平均年齢37.4歳、AIDS発症者681件(52%)、感染経路別では男性同性間性的接触が617件(47%)で最も多かった。入院患者件数は1997年〜2002年末までの順に97、191、194、219、223、224件と年々増加し、2000年を境に入院時病期に関してAC(無症候性キャリア)期とAIDS発症期の割合が逆転していた(図1)。

入院時看護度の高い患者の転帰

2002年末までの入院件数1,148件中、入院時に高い看護度(A-I、II・B-I)が必要だったのは82件(7.1%)で、入院理由は全体を通してカリニ肺炎などの日和見感染症が多く、1999年でいったん下降した血友病患者の肝炎治療が2002年に増加していた(図2)。転帰は外来が52件で最も多く、死亡15件、転院8件、帰国7件だった(図3)。

看護度の高い患者の死亡原因

多剤併用療法の進歩により、いったん死亡者が減少したものの、進行し重症化した日和見感染症による死亡者数が増加した。調査期間中42名が亡くなったが、入院時の看護度は必ずしも高いとは言えず(図4)、治療中に状態が変化したケースも多かった。1999年〜2000年までは、特に若い世代の薬害エイズ患者がHIV/HCV 重複感染により肝不全、肝硬変で死亡する例が多く見られ、2001年以降は、劇症のAIDS発症者(カリニ肺炎、悪性リンパ腫など)で同時に複数の治療を必要とし、相互作用や副作用の問題から抗HIV療法が導入できず、疾患コントロールが難しかったため、不幸な転帰となった。

考 察

1.看護度と転帰

・入院時に高い看護度を必要とした82件(7.1%)の入院理由の多くは、日和見感染症関連であった。

・82件の転帰は、外来通院が52件(63%)、死亡15件(18%)、転院など療養生活が引き続き必要である者8件(9.8%)や帰国7件(8.5%)であった。

2.ケア内容の変化

・死亡患者42名の入院時看護度は、必ずしも高くなかったことから、日和見感染症等の治療中に状態が悪化したことが考えられた。

・治療経過と病状変化を随時把握しながら、患者にあった看護に反映させていくことが必要である。

まとめ

病気発見から20余年が経過し、いまだ根治薬は発見されていないが、治療を受けながら仕事や学業との両立が可能になった。しかしわが国のHIV/AIDS患者報告数は増加を続けている。中には自らの感染を知らずに治療や医療機関にアクセスできず、発見される頃には重篤な症状を発症し、予後に大きな影響を及ぼしている。わが国では、入院・外来を含め医療機関の充実とともに検査体制の拡充が課題である。

国立国際医療センター/エイズ治療・研究開発センター
池田和子 小野瀬友子 山田由紀 岡 慎一 木村 哲
国立病院機構仙台医療センター 伊藤ひとみ

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