米国では、毎年70〜80万例の淋菌感染症があると推定されている。1993年以来、CDCは淋菌感染症に対し、フルオロキノロン系抗菌薬(シプロフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシンなど)の使用を推奨してきた。しかし、フルオロキノロン耐性淋菌(QRNG)はアジア、ハワイなどの太平洋諸島、カリフォルニアで発生が増加しているので、これらの地域での感染例には同薬剤はもはや推奨されていない。本報では2003年におけるマサチューセッツ州、ニューヨーク市、および30カ所での男性間性交渉者(MSM)におけるQRNGサーベイランスの結果を示す。CDCでは現在、MSMでの淋菌感染症の第一選択治療薬としてフルオロキノロン系薬を使わないよう推奨している。
本サーベイランスでは、全米30カ所の性感染症クリニックで男性尿道検体より分離された約5,000の淋菌の薬剤感受性をモニターしている。2003年1〜9月における予備的調査ではQRNGの割合が4.2%(2002年2.2%、2001年0.7%)であり、ハワイとカリフォルニアを除くと0.9%であった。さらに、MSMでは4.9%、異性間性交渉者では0.4%であった。
マサチューセッツ州では、2003年1〜8月の期間に235名の患者から分離された249株の淋菌の薬剤感受性検査を行った。QRNGは26株で10%であったが、2002年には2.1%(10/486)、2001年には0%( 0/386)であった。この26株が分離された24名中男性は22名、うち17名(77%)がMSMであった。また、111名の男性淋菌感染症の患者記録によれば、7例( 6.3%)でQRNGが検出され、MSM 54例では6例(11%)に検出された。2002年後半からのQRNGの増加を受けて、衛生局は医療従事者にむけてフルオロキノロン耐性菌の増加を警告し、感受性試験でQRNGが否定されなければ、フルオロキノロン系薬の使用を推奨しないことを述べた臨床指針を発行した。
ニューヨーク市では、2003年1〜7月の期間に公営のSTDクリニック10カ所で分離された 643株を検査した。QRNGは2002年に0.3%、2001年に0.1%であったのに対して、2003年には3.4%(22株)であった。6施設での患者記録によれば、369名の患者から分離された淋菌394株が検査されたが、QRNGは5%(18名)の患者から検出された。うち17名が男性であり、13名(77%)がMSMであった。性行動が記載されていた症例でのQRNGの発生率をみると、MSMでは13%(112例中14名)であった。また、QRNG治療記録のある17名中14名については、セフトリアキソンによる治療がなされていた。
臨床医は、MSMでの淋菌感染症にフルオロキノロン系薬を使用する際には薬剤感受性試験を行うべきであり、また注意深い観察を行い、耐性菌の可能性を患者に伝える必要がある。保健当局はクリニックに対し、抗菌薬感受性検査の技術的支援を行っていくこと、および、今後のQRNG発生率について注意深く観察していく必要がある。
(CDC, MMWR, 53, No.16, 335-338, 2004)