麻疹罹患後、急性脳炎で死亡した成人女性例

(Vol.25 p 182-183)

新潟市では2003年12月下旬より、小中高校で麻疹の発生が報告されており、市報や教育委員会からの通知で、未接種児童・生徒に対する予防接種の勧奨、麻疹に対する知識の普及に努めてきた。新潟市の感染症発生動向調査上の小児科定点からの報告では、教育委員会の報告に見られる2003年末の流行状況は把握されず、2004年においても第9週の7件(定点当たり0.70)をピークに、その後は、週0〜3件の報告で、第21週現在も週1件程度の報告である()。また、基幹定点からの成人麻疹の報告は、新潟市近傍の保健所で第13週に1件のみであった。

このような流行状況のなか、5月11日、麻疹罹患後に急性脳炎で死亡した成人女性例の届出があったので、この症例の経過について報告する。

症例は28歳の女性で専業主婦である。子供2人(5歳・2歳)は、近所のかかりつけ小児科医(A医院)で麻疹の予防接種は実施済みであったが、患者本人には麻疹の予防接種歴も罹患歴もなかった。現病歴では発症前、子供の感冒のためにA医院に頻回に通院していたとのことであった。

4月7日に37.5℃の発熱と咳があり、翌8日にA医院で抗菌薬の処方を受けたが、その後顔面に発疹が出現、9日の夜間より38〜39℃の高熱が出現した。10日に近くのB内科医院を受診し、急性気管支炎として抗菌薬の点滴を受けるが改善傾向はなく、発疹が全身に拡大した。

11日にC総合病院の救急外来を受診し、コプリック斑を認め麻疹と診断され、皮膚科に入院となった。入院時検査所見では、白血球数2,900/μl、血小板数12.1×104 /μl 、CRP 3.3mg/dl。麻疹に対する血清抗体検査で、IgG (+)EIA値5.3(正常2.0未満)、IgM (+)抗体指数13.39(正常0.80未満)とIgM抗体が検出された。

12日には呼吸困難が出現し、胸部X線検査にて肺炎の所見が認められた。14日からは解熱し、発疹も改善傾向が認められたが、食欲不振が続いていた。15日深夜に訪室した看護師により、ベッド脇に尿失禁状態で座り込んでいるところを発見された。その後急速に意識障害が進行し、翌朝の脳CT・MRIで著明な脳浮腫の所見が認められたが、出血や腫瘤形成などみられず、麻疹による脳炎の疑いで、同日、専門的管理のためD病院神経内科に転院し、人工呼吸器管理となった。意識レベルはJCS 100/300と昏睡レベルで、刺激により除皮質硬直姿勢をとり、脳波では全般性徐波と一部棘徐波複合が見られた。16日にはショック状態となり脳幹反射も消失し、17日の脳波はほぼ平坦となり、28日に永眠された。意識障害が出現した以後の髄液検査は、脳圧亢進のため実施しておらず、また、剖検は行われなかった。

本症例の麻疹は、子供の感冒のため通院していたA小児科医院で感染した可能性が高い。A医院では麻疹患者を診断した際、同時に受診していた小児に対してはγ-グロブリン投与や予防接種の勧奨を行っていた。患者は子供への予防接種は行っていたが、自身の罹患歴やワクチン接種歴はなかった。経過は順調と思われたが、急激に脳炎を発症し、不幸な転帰をとった。

新潟市では麻疹対策として、流行情報の広報や、各乳幼児健診、就学時健診などの機会を利用して予防接種を勧奨している。また、教育委員会からは保健所に対し、小中高校での麻疹流行状況についての情報提供が、罹患した児童・生徒の罹患歴・接種歴などのプロフィールとともになされており、協力して対策をとっているが、小児科定点からの報告では把握できない流行を検知でき、有用である。

新潟市の麻疹ワクチン接種率は2003(平成15)年度で88.9%であるが、教育委員会から報告される罹患児のプロフィールからは、未接種例がまだかなりの数存在することがうかがえ、今後さらに関係機関と連携し、実態調査、接種強化策を進めていきたい。

また、麻疹に対し感受性を有する成人が親世代となってきており、流行時には小児だけでなく親への対応も重要であり、成人麻疹を診る機会の多い皮膚科や内科などの医療機関に対する注意喚起も必要である。今後は、医療機関・学校・保育園職員など感染の危険を有するグループに対して、非流行時から対策を行うことも検討していきたい。

新潟市保健所・保健予防課感染症対策係

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