5月に保育園で発生したノロウイルスによる急性胃腸炎の集団発生事例−岩手県
(Vol.25 p 180-180)

流行シーズンからは外れた5月に保育園で発生したノロウイルスによる急性胃腸炎の集団発生事例について、その概要を報告する。

発生状況:2004(平成16)年5月10日、管内の医療機関から大船渡保健所に下痢・嘔吐を主症状とするA保育園の園児19名を診察した旨の情報提供があった。保健所で調査を行ったところ、A保育園は、在籍園児数158名、職員数26名で、患者は園児のみで、報告のあった19名以外にも患者が発生していた。初発患者は8日夜に発症していた。A保育園では自施設での調理による給食を実施し、午前・午後のおやつと昼食を提供していた。また、8日の午前中には父母も参加しての行事を行い、参加者に昼食として仕出し弁当を配布した。保健所では給食または仕出し弁当を原因とする集団食中毒も疑い調査を開始した。患者の日別発生状況をに示したが、患者は10日以降も園児と園児の家族等に発生し、18日まで発生が続いた。最終的な患者数は、園児が56名、園児の家族等が14名で計70名であった。主な症状は嘔吐(発現率69%)、腹痛(21%)、下痢(29%)、発熱(27%)であった。なお、職員には患者発生はみられなかった。

微生物学的検査:A保育園の園児(患者)および職員、仕出し弁当を製造した飲食店の従業員については糞便を材料として細菌検査とウイルス検査を、保育園の調理施設および8日の仕出し弁当(保存食)については細菌検査を実施した。その結果、細菌検査においては集団発生の原因と考えられる病原細菌は検出されなかったが、ウイルス検査において対象とした13名の患者全員からRT-PCRによりノロウイルスが検出された。検出されたノロウイルスはすべての株が遺伝子的に同一の株で、genogroup IIであった。

まとめ:今回の事例は、当初は食中毒が疑われた。しかし、給食については職員に発症者がいなかったことから原因から除外された。また、仕出し弁当については喫食から発症までの時間が短く、さらに、同じ仕出し弁当を喫食した他のグループでは患者の発生はみられなかったことから原因から除外された。以上から本事例は、人→人感染によるノロウイルス胃腸炎の集団発生で、最初の感染機会によりノロウイルスに曝露された園児が9日をピークに発症し、その後、発症した園児から他の園児や家族等へと次々に感染が拡散したのではないかと考えられた。

今回の事例では、園児に共稼ぎの家庭の子が多く休園の措置はとられず、二次感染による患者の発生が続いた。そこで、保健所では保育園に対し園内や家庭における手洗い・消毒の徹底、患者は回復後も数日間は登園を控えること等を指導した。その後、患者の発生は減少し、18日に終息した。

岩手県環境保健研究センター
齋藤幸一 高橋朱実 藤井伸一郎 佐藤 卓 田澤光正
岩手県大船渡保健所
貝沼和彦 今野隆子 前田学 佐藤徹 佐々木絵理 加藤裕子 菊池武彦
菅野 淳 六本木義光

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