飲食店において発生したノロウイルス食中毒−岩手県
(Vol.25 p 181-181)

2004(平成16)年4月に盛岡市内の飲食店(以下Y店とする)を原因施設として発 生したノロウイルス集団食中毒についてその概要を報告する。

4月19日にY店の利用者から管轄の盛岡保健所に「職場のグループで16日にY店で会食をしたところ、18日昼頃から数名が発熱、嘔吐、下痢等の食中毒様症状を呈した」と連絡があった。同保健所で調査を行ったところ、16日にY店を団体予約し利用したグループは3グループで、いずれのグループにおいても患者が発生していた。

患者数は、通報のあったグループが参加者26名中20名、他のグループが44名中30名、15名中7名で、合計57名であった。一方、Y店には25名〜30名が座れるフリー客用の客席もあり、同日の店内は常に満席の状態で、利用客数は把握できなかったが、後日、マスコミで事件の発生を知ったフリー客6名から有症の旨通報があった。その結果、患者総数は63名となった。

患者の状況は、年齢は19歳〜63歳、Y店での会食が原因とした場合の潜伏時間は平均で39時間27分、主な症状は嘔気(発現率57%)、嘔吐(39%)、腹痛(48%)、下痢(64%)、発熱(56%)、頭痛(48%)であった。症状は全般に軽く、10名が医療機関を受診したが入院加療を受けたものはなかった。

微生物学的検査は、患者およびY店の従業員について糞便を検体として実施した。細菌検査においては原因と考えられる病原細菌は検出されず、ウイルス検査において患者12名中8名、従業員5名中1名からRT-PCRによりノロウイルスが検出された。検出されたノロウイルスはすべて遺伝子的に同一の株で、genogroup Iであった。今回の事例は患者から高率にノロウイルスが検出され、患者の発生状況がこれまでに報告されているノロウイルスによる集団食中毒の発生状況と一致し、さらに、患者に共通する食品はY店の食事のみであったことからY店を原因施設とするノロウイルスによる食中毒と断定された。

患者の共通食品は16日のY店の料理のみであったが、同日の食材の残品がなく、検査による原因食品の特定はできなかった。また、喫食状況調査からも原因食品を特定することはできなかった。なお、食材中にカキは含まれていなかった。食品の汚染経路については1名の従業員からノロウイルスが検出され、検出されたノロウイルスが患者から検出されたノロウイルスと遺伝子的に同一で、かつ当該従業員が調理に従事していたことから、当該従業員に由来するウイルスにより食品が汚染されたのではないかと疑われたが、当該従業員は無症状で感染時期が不明であったことから、汚染原因の特定には至らなかった。

岩手県環境保健研究センター
齋藤幸一 高橋朱実 藤井伸一郎 佐藤 卓 田澤光正
岩手県盛岡保健所 佐藤育夫 高橋憲雄

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