クラミジア咽頭感染の実情

(Vol.25 p 200-201)

Chlamydia trachomatis (以下Ctと略)は、円柱上皮がある眼瞼結膜、尿道、子宮頸管、咽頭、直腸などに感染することが知られている。特に、最近では、性行動の多様化や風俗産業の多様化などにより、いわゆる口腔性交(オーラルセックス)が定着したため、Ctの咽頭感染を認める症例が増加している。性体験のあるcommercial sex worker (CSW)でない一般女性122名を対象にして行った、性交渉の際のオーラルセックスの実態についてのアンケート結果を表1に示した。この表1から明らかなように、現在では、オーラルセックスは、性行為におけるごく普通の行為として定着している感がある。しかしながら、Ctの咽頭感染が認められる例でも、無症候性であることが多く、これがクラミジア感染拡大のひとつの要因になっていると考えられる。

Ctの咽頭感染の診断方法としては、咽頭スワブを検体とする核酸増幅法によるCtの検出がよいと考えられるが、まれに咽頭に常在する細菌の存在により、偽陽性を生じることがある。咽頭スワブの検体採取方法は、一般的には、両側扁桃陰窩、咽頭後壁を強く擦過して採取する。

表2に、2002年に、CSWとCSWでない一般女性で、子宮頸管と咽頭におけるCt感染状況について調査した結果を示した。子宮頸管にクラミジア感染が認められた女性は、CSWでは32%、CSWでない一般女性では11%であり、咽頭にクラミジア感染が認められた女性は、CSWでは18%、CSWでない一般女性では2.6%であった。子宮頸管にクラミジア感染が認められた例のうち、咽頭にもクラミジア感染が認められた例が、CSWでは56%、CSWでない一般女性では25%であった。

クラミジア咽頭感染の治療に関しては、日本性感染症学会の「性感染症 診断・治療ガイドライン2004」の中でも、マクロライド系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬のうち抗菌力のあるもの、あるいはテトラサイクリン系薬を投薬すると記載されている。一般に、慢性の扁桃腺炎や咽頭炎のうちセフェム系薬で治療し、反応しないものの約1/3にクラミジアによるものが存在するが、性器に感染したものと比較すると治療に時間がかかると記載されている。

表3に、クラミジア咽頭感染を、アジスロマイシン1,000mg単回投与、クラリスロマイシン400mg・分2・7日間、クラリスロマイシン400mg・分2・10日間、クラリスロマイシン400mg・分2・14日間、レボフロキサシン300mg・分3・7日間、レボフロキサシン300mg・分3・10日間、レボフロキサシン300mg・分3・14日間で治療した成績を示した。いずれの治療群においても、治療終了後22日目のPCR法の成績に基づいて治療効果を判定した。アジスロマイシン1,000mg単回投与では、子宮頸管および咽頭の除菌率は、それぞれ100%および86%、クラリスロマイシンおよびレボフロキサシンの10日間以上の投与群では、子宮頸管および咽頭の除菌率は100%であったが、咽頭の除菌率は、クラリスロマイシンおよびレボフロキサシンの7日間投与では、83%にとどまっていた。この結果から、その原因は不明であるが、クラミジア感染は、性器に感染したものと比較すると、咽頭に感染したものでは、治療に時間がかかることがわかる。

クラミジアの咽頭感染は増加傾向にあるため、咽頭に症状がない場合でも、特に、性器感染を認めたような症例では、積極的に咽頭の感染状況についても検査を行い、必要に応じて、適切な治療を行うことが重要となろう。

岐阜大学生命科学総合実験センター・嫌気性菌実験分野
岐阜大学医学部附属病院成育医療・女性科 三鴨廣繁
岐阜大学生命科学総合実験センター・嫌気性菌実験分野 田中香お里 渡邉邦友

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