Panton-Valentineロイコシジン陽性市中感染MRSA感染症の新興−ベルギー


(Vol.25 p 212-212)

Panton-Valentineロイコシジン(PVL)はlukS-lukF遺伝子によってコードされるが、この毒素を産生する高病原性菌株が原因となる、市中感染メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(CA-MRSA)感染症の世界的発生(新興)が関心を集めている。

最初の報告は、1990年代早期にオーストラリア西部の原住民の間で発生したものであるが、最近米国とヨーロッパで、病院とは無関係の健康小児や成人でのCA-MRSA感染症が発生した。これらは、刑務所収容者、スポーツチーム、学童のようなコミュニティー内で起こっている。PVL陽性MRSA感染症はヨーロッパ各地でも報告されてきている。分子学的研究からは、院内感染株とは遺伝子的に異なる限られた数のPVL 産生MRSAクローンから広がったことが示唆される。

ヨーロッパでは、ほとんどの株がMLST 80(multi-locus sequence type 80)であり、agr type 3とSCCmec type IV遺伝子を保有している。このPVL陽性CA-MRSAの新興は公衆衛生上の脅威であるが、なぜならば、これらの株は重篤な軟部組織感染症や壊死性肺炎を生ずるからである。この場合の壊死性肺炎では、致命率75%と報告されている。通常処方されるβ-ラクタム薬を使用すると、治療は失敗する。

ベルギーにおけるPVL陽性CA-MRSA2症例のうち、最初の例はブリュッセルに住む49歳の女性で、2003年11月に両下肢のせつ腫症があり、外来を受診した。病変部からオキサシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、フシジン酸に耐性の黄色ブドウ球菌が分離された。この患者はドキシサイクリンの内服、ムピロシンとポビドンヨードクリームの塗布により、数週間で回復した。

2例目はNamurに住む46歳男性で、発熱と腹痛のため入院した。その男性には入院の既往歴がなかった。口腔周囲の膿瘍があり、口唇生検では唾液腺の壊死がみられた。両側肺の浸潤と胸水貯留もみられた。血液培養の2検体と膿瘍からオキサシリン、カナマイシン、フシジン酸に耐性の黄色ブドウ球菌が分離された。4週間にわたるクリンダマイシンの経静脈的投与により、徐々に治まった。

これらの2つの分離菌はいずれもmec A遺伝子とlukS-lukF遺伝子が陽性で、agr type 3とMLST 80-SCCmec type IVを有しており、PFGEパターンが一致したが、共通の曝露やその他の関連は見られなかった。

臨床医は、皮膚および呼吸器におけるCA-MRSA 感染症の可能性に注意を払うべきであり、β-ラクタム薬やフシジン酸外用治療に反応しない外来患者の皮膚感染症や呼吸器感染症については、培養検査をすべきである。通常と異なる抗菌薬耐性パターンを示す黄色ブドウ球菌を検出した際には、PVLの産生と型別決定のために、リファレンスラボに菌株を送付すべきである。

(Eurosurveillance Weekly, 8, Issue 24, 2004)

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