2004年4月〜5月にかけて滋賀県内の一特別養護老人ホームにおいてノロウイルスによる集団胃腸炎事例が発生したので、その概要について報告する。
事例発生時の当該施設関係者は252名であり、その内訳は施設入所者102名、ショートスティ利用者23名、デイサービス利用者60名および職員67名(ケアワーカー40名、調理従事者9名、看護師5名および事務系職員13名)である。なお、当該施設は本館1階、2階および別館から構成されている。
4月27日〜4月30日にかけて入所者7名と職員5名の計12名が嘔吐、下痢を発症し、うち3名が入院した。4月30日〜5月1日の間に、入所者である患者6名ならびに調理従事者9名の合計15名について糞便を採取した。なお、調理従事者は全員無症状であった。
採取された糞便について、SR系プライマー(Andoら、J. Clin. Microbiol., 33, 1995)を用いてRT-PCRを行い、得られたPCR増幅産物に対し、サザンブロット・ハイブリダイゼーションを行ったところ、患者6名全員からgenogroup IIのノロウイルス遺伝子が検出された。調理従事者9名については全員不検出であった。また、同時に細菌検査についても行ったが、下痢起因菌は検出されなかった。このため、当該施設における集団胃腸炎の病因物質はノロウイルスと判断された。なお、患者6名のうち2検体のPCR増幅産物についてシークエンスを実施した結果、2検体の塩基配列は同一であり、Lordsdale株と近縁であった。
患者数および発症率等の詳細は表に示すとおりであり、症状別発症率は嘔吐64%、下痢61%およびその他52%であった。初発患者が発生した4月27日から終息までに8日を要した(図)。保健所は4月30日に本事例を探知し、同日採取した検体から5月2日にノロウイルスを検出した。
感染経路は、以下の2点から施設内での人から人への感染と考えられた。(1)流行曲線が単一曝露型ではない、(2)入所者は施設給食を、職員は持参した弁当を喫食しており、共通食は無かった。4月27日の初発患者から施設内に感染が広がった可能性もあるが、検査は実施されておらず、感染源となったか否かについては不明であった。感染経路および拡大要因については、入所者間の接触、入所者と職員の接触、洗面所のタオルの共用、塩素系消毒剤ではなくエタノールの多用等が疑われた。
ノロウイルスは極めて少量でも感染力を有することが指摘されており、施設職員は手洗い、うがい等を日頃から行うとともに、施設内の衛生管理に留意し、施設内の感染防止対策を徹底する必要がある。本事例でも保健所の指導の結果、その後新たな患者発生は見られなかった。ノロウイルス感染症の集団発生では患者本人の苦痛が大きいこと、施設職員も発病することによるマンパワー減、消毒・洗浄等の経済的負担を考慮すると、予防対策を充実させることが重要であると考える。
滋賀県立衛生環境センター 松根 渉 大内好美 吉田智子 井上朋宏
滋賀県大津健康福祉センター 武田浩文 尾本由美子