モントリオール中心地区での水浴が原因と考えられる、大腸菌O157:H7による初めての集団発生事例を報告する。
2001年の8月15〜21日の間にモントリオール中心地区で、大腸菌O157:H7による4症例が報告された。これらの患者は3〜7歳の男児であった。疫学調査によると4例に共通する事項として、モントリオール中心地区のパブリックビーチにおける水浴が曝露因子である可能性が示唆された。4例の男児は7月28日〜8月12日の間に水浴をしていた。発症は8月5〜16日である。男児達は全く異なる市に住み、互いに面識もなかった。これらの情報に基づき、感染源として、水浴場所の水が最も可能性が高いと考えられた。環境調査、分離株のパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による解析、症例対照研究が行われた。
環境調査:男児らが曝露されていたと考えられる期間のモントリオール地域の気温は、平年気温よりもかなり高かった。水浴したパブリックビーチは約200×500メートルの大きさがあるが、実際の水泳区域はそれよりも小さかった。衛生施設としては、水洗ではないトイレ、手洗い用の蛇口と数個のシャワーのみであった。排水は木製の側溝に流れ込んでいたが、最終的にどこに流れているか不明であった。一言でいうと、この水浴域の環境はほとんど衛生設備の整っていない粗野なものであった。近隣には農場はなく、動物はいなかった。近所にレストランがあったが、患者は誰も利用していなかった。患者の親によると、ここに来たときは大勢の人が訪れており、水浴をしている人も多かったということであった。2001年夏の水浴水モニタリングプログラムによると、7月と8月の微生物検査結果は以下の通りであった。
検体採取日 | 糞便大腸菌群/100ml | 水温(℃) |
04/07/2001 | 6 | 21.2 |
08/07/2001 | 36 | 19.7 |
16/07/2001 | 11 | 25.5 |
24/07/2001 | 9 | 26.7 |
01/08/2001 | 129 | 27.8 |
05/08/2001 | 64 | 25.0 |
13/08/2001 | 162 | 25.8 |
疫学的追跡調査:3種類の異なる菌株であったが、そこでの水浴という曝露がたまたま一致したのではない可能性を検証するために、症例対照研究を行った。比較対照として、報告義務のある百日咳症例について、年齢が合致して2001年9〜12月に発生した13例について調べた。対照群13例のうち、該当期間にパブリックビーチを訪れたのは1例のみであった。したがって、4例が当該パブリックビーチで水浴したのはたまたま一致しただけである可能性は、極めて低いと考えられる。以上から、我々は、患者由来株には3種類のPFGE型があるものの、4例の患者はおそらく水浴時に感染したものと推測している。
大腸菌O157:H7感染症は報告義務のある疾患であるが、この集団発生に関連して報告された症例数はおそらく実際よりは少なく、重症例のみが報告されたと思われる。患者4例中3例が入院したが、HUSの発症はなかった。
(Canada CDR, 30, No.15, 2004)