アデノウイルス11型による集団発生事例−千葉県

(Vol.25 p 233-234)

アデノウイルス11型(Ad11)はB亜群に属するウイルスで、急性出血性膀胱炎の起因ウイルスとして知られているが、呼吸器症状での集団発生の報告は1969年のスペインの軍隊新兵での発生事例の他にはほとんどない1)。

今回、県内東部の職業学校および南部の高校においてアデノウイルス11型による2事例の集団発生を経験したので報告する。

事例1:2004年5月24日、県東部A市の全寮制の職業学校(5/24現在、学生471名、職員70名、年齢18歳以上、4/1と5/6に新入校生があった)より所轄保健所に「伝染性単核症の診断を受けた学生がおり、他にも40名ほど具合の悪い人がいる。」との連絡があり調査が開始された。調査の結果、発症者の主な症状は、発熱、咽頭痛、咳、頭痛、全身倦怠感であり、アデノウイルス抗原検出用簡易キットで陽性となった者が複数いることがわかった。

病原体検索として5月28日に採取した咽頭ぬぐい液10検体について、アデノウイルスをターゲットにしたPCRおよびウイルス分離(CaCo-2細胞、HeLa細胞)を行った。PCRは、AllardらのHexonに設定したプライマー2)を用いた。10検体中7検体が陽性であり、ダイレクトシークエンスの結果、Ad11またはAd35であることが示唆された。ウイルス分離では、10検体中7検体がCaCo-2細胞でのみ分離された。中和試験の結果、抗Ad11血清で中和されたが交差反応性を考慮し、感染研より分与を受けた抗Ad35血清を用いて中和試験を実施した。その結果、交差反応は否定されAd11であることが確認された。

最終的に、4月上旬から始まった学校内の感染は、発症者数391名を数え、6月中旬に終息した(図1)。

事例2:同年5月31日、県南部B市の高等学校(一部寮制、生徒1,143名、職員70名)の生徒が40℃近くの発熱を持続し医療機関を受診した。同校に同じような生徒が20人以上いるとの報告により医師が所轄保健所に状況提供を求めた。これを受け所轄保健所による調査が開始された。主症状は発熱、咽頭炎、咳であり、空手部、柔道部、剣道部、相撲部に特に患者が多かった。疫学的な絞り込みからウイルス感染が疑われ、病原体検索を行った。

咽頭ぬぐい液は、患者が発病し学校医を受診した時点で採取し、9検体(6月20日〜28日採取)が得られた。ウイルス分離は3種類の細胞(CaCo-2細胞、HeLa細胞、Vero細胞)を用いて行った。PCRはこれと同時にアデノウイルスをターゲットに実施した。ともに9検体中5検体が陽性であり、陽性検体は一致した。ウイルス分離ではCaCo-2細胞で速やかにウイルスが分離され、中和試験による同定の結果、Ad11であることが確認された。

最終的に、5月中旬から始まった流行は発症者数261名で7月上旬に終息した(図2)。

これらの状況からA市の小児科病原体定点、隣接するC町の基幹病原体定点に対して、咽頭炎や扁桃炎の患者の咽頭ぬぐい液の採取を依頼した。38検体のうち、現在分離されているウイルスはAd1 、Ad2 、Ad3 、Ad4 、コクサッキーウイルスB1であり、Ad11は現在のところ分離されていない。

しかしながら、千葉市においては2004年3月に採取された咽頭扁桃炎の小児の咽頭ぬぐい液からAd11を分離している。また、SRLのLABEAM 16(4), 2004の2003年1月〜12月の分離株数の報告では、Ad11は全国においても千葉県においてもAd3 に次いで多く分離されているが、そのほとんどが尿からの分離である。

現在のところ県内でのAd11の侵淫状況は明らかでなく、調査を継続中である。

今回の集団発生は、それぞれ終息までに11週と8週を要している。長期間におよんだ理由としては、届け出の遅れもさることながら、アデノウイルスの特性である排泄期間の長さ3)、環境中での安定期間の長さ4)によって感染源が長く保持されたことや、集団の免疫の状態なども関与していたと考えられた。これら2事例の関連性は不明である。

稿をまとめるにあたり、貴重な抗血清を分与してくださった国立感染症研究所・稲田敏樹先生、Ad11臨床分離株についての情報提供をしてくださった千葉市環境保健研究所の先生、検体採取してくださった医療機関の先生、疫学情報を提供してくださった関係保健所の皆様に感謝申し上げます。

文 献
1) Hierholzer J.C. et al., Amer. J. Epidemiol. 99(6): 434-442, 1974
2) Allard A. et al., J. Clin. Microbiol. 39(2):.498-505, 2001
3) Murry et al., Medical Microbiology (4th Edition), 2002
4) Azar M.J. et al., Amer. J. Ophthalm. 121: 711-712, 1996

千葉県衛生研究所
小川知子 岡田峰幸 窪谷弘子 吉住秀隆 篠崎邦子 一戸貞人

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