2004年5月23日、1泊2日の体験学習に参加した堺市内の小学校2校の児童が嘔吐・下痢・発熱の症状を呈しているとの届出が堺市保健所にあった。
この体験学習は和歌山県日高郡の宿泊施設を利用して、5月20日〜5月21日にかけて行われ、A小学校、B小学校から5年生それぞれ3クラス合計191人、引率者15名が参加した。両校とも、20日の昼前に宿泊施設に到着し、21日の昼過ぎまで滞在した。初発患者のA小学校2名の児童が20日20時頃、下痢、嘔吐症状を呈した。この時、寝具、衣服およびベッド周辺が吐物で汚れたため、引率者が寝具を取り換え、ぞうきんを使って清掃し、衣服は洗面所で洗浄した。翌朝には、A、B両校生徒および引率者全員で、各部屋、廊下を箒で清掃した。その後、22日の午後をピークとして、両校の生徒に急性胃腸炎症状がみられた(図)。有症者は参加者206人中124人(60%)で、両校のすべてのクラス、引率者から患者が発生した。
初期搬入検体は吐物2検体、便8検体で、便検体のみELISA法で2検体、RT-PCR法で4検体が陽性であった。合計、便26検体、嘔吐物4検体について、食中毒原因菌およびノロウイルスの検査を行った。原因と考えられる細菌は検出されなかったが、RT-PCR法により便21検体からgenogroup (G) IIのノロウイルス遺伝子が検出された。最初に嘔吐症状があった2名の児童含む、A校7株とB校2株の計9株を用いてGII Capsid領域を増幅した。ダイレクトシーケンスを実施し、片山らの方法(IDWR 6, 14-19, 2004)に基づいて遺伝子番号を決定した。その結果、塩基配列はすべて一致し、Melksham/89/UK(GenBank accession No. X81879)と98%の相同性があり、GII/2型に分類された。
一方、宿泊施設については、管轄保健所が従業員の便14検体、保存食47検体および施設ふきとり11検体を検査したが、食中毒原因菌およびRT-PCR法でノロウイルスは検出されなかった。
ノロウイルスの潜伏期間は24時間〜48時間と考えられていることから、初発症状のみられた2児童は、体験学習に参加する前に、既にノロウイルスに感染していたと推察された。この吐物が原因となって二次感染がみられ、多数の児童、成人(引率者)への感染が拡大した可能性が考えられた。
この事例のように、施設内感染には、潜伏期中の感染者(宿泊者)からの吐物、便などが原因となり二次感染するまれな「持ち込み感染」様式も考えられる。
今後の感染対策には、十分な疫学調査を含めて、心に留めておかなければならない感染事例であったと考える。
堺市衛生研究所 池田芳春 内野清子 三好龍也 吉田永祥 田中智之
堺市保健所 浦崎健次 江渡亜紀
和歌山県御坊保健所 小川雅広 村上 毅 野尻孝子