2004年7月、大阪市内において発生したRespiratory syncytial virus (RSV)の集団感染事例について報告する。
患者は、市内にある保育所の園児9名であり、Aクラス11名中8名および同フロアにあるBクラス15名中1名の計9名であった。7月7日に最初の患者が発症後、8〜9日にかけて2名、11〜13日にかけて残りの6名が発症した。近隣医院を受診した結果、発熱、咳、喘鳴などの共通した呼吸器症状が認められた。年齢は、0〜1歳が3名、1〜2歳が6名であった。9名中3名は肺炎もしくは細気管支炎であり、その後、他医療機関にて入院治療を受けた。他の3名も重症であったが、現在は全員回復した。
近隣医院を受診した9名は、RSV抗原迅速診断キットの結果、全員陽性であった。引き続き、RSVの遺伝子検査をおこなう目的で当研究所において7名の検体について検討した。QIAamp Viral RNA Mini Kit を用いて鼻腔ぬぐい液からウイルスRNAを抽出後、Erdmanらが報告したF遺伝子領域を標的としたprimer pair (J. Clin. Microbiol. 41: 4298-4303, 2003) を用いてreverse transcription (RT)-PCRをおこなった結果、すべての検体からRSVの遺伝子が検出された。増幅されたDNA断片を精製後、ダイレクトシークエンスで塩基配列(312塩基)を決定したところ、7株間の塩基配列は 100%一致することが判明した。
以上の結果から、今回の集団感染は、同一株のRSVにより引き起こされた可能性が高いことが示唆された。これら分離株をDDBJのBLAST(http://www.ddbj.nig.ac.jp/search/blast-j.html)にて相同性検索をおこなった結果、シンガポールで分離されたLLC62-111株と100%一致した。RSVと同様の臨床症状を示すヒトメタニューモウイルス(hMPV)の検出もRT-PCR法にて試みたが、すべて陰性であった。現在、HeLa細胞、FL細胞を用いてウイルス分離を試みている。
以後、同保育所および周辺において新たな患者の発生は認められておらず、感染は終息したものと考えられた。RSV感染は、冬季を中心とした流行が報告されており、今回のように夏季の感染事例は珍しい。現在、他の遺伝子領域における塩基配列の解析を進めており、今後、既知株の塩基配列と比較検討をおこなう予定である。
大阪市立環境科学研究所 改田 厚 村上 司 入谷展弘 久保英幸 石井營次
浜本小児科 浜本芳彦