2004年夏、愛媛県におけるエンテロウイルス(EV)感染症は、全般的に穏やかな流行で推移している。やや大きな流行がみられたのはヘルパンギーナのみで、患者は例年より2〜3週早い第20週から増加し始め、第24週(6月第1週)にピーク(定点当り7.7人/週)を示した(図)。手足口病や無菌性髄膜炎の発生頻度は低い状態で経過してきている。今回は夏季のEV検出状況について報告する。
供試した検体は、2004年4月〜8月の間に、感染症発生動向調査の一環として病原体定点等医療機関から搬入された、咽頭ぬぐい液303件、髄液24件および便16件等、計355件であった。ウイルス分離はFL、RD-18S、Vero細胞を用い、33℃で2週間回転培養して行った。また、必要に応じて哺乳マウスも併用した。
月別のウイルス検出状況を表1に、診断名別検出数を表2に示した。期間中EVは計78株分離された。コクサッキーウイルス(C)A4は4月以降計35株で最も多かった。6月下旬以降EVの検出が増加し、CA2、9、16、コクサッキーウイルス(C)B1、2、5、Echo 3、6、7と多彩な血清型株が分離された。EV以外にはアデノ、RS、ムンプス、単純ヘルペスウイルスがみられた。
CA4はヘルパンギーナ患者報告数の多かった5、6月に集中しており、今夏のヘルパンギーナはCA4を主原因とする流行であったと考えられた(図)。CA4陽性患者の診断名はヘルパンギーナの他、不明熱、上気道炎等であり、CA4がいわゆる夏カゼの原因でもあったことが推察された。CA4陽性患者の年齢分布は1歳が最も多く15名、次いで2歳7名、3歳5名で、3歳以下が80%以上を占めていた。無菌性髄膜炎からはCB1が2株(髄液1、咽頭ぬぐい液1)、CB5が2株(髄液2)、Echo 7が1株(髄液)検出されており、それぞれが無菌性髄膜炎の起因ウイルスであったと推定された。また、手足口病からはCB5が2株(咽頭ぬぐい液1、便1)分離されたが、CA16が水疱内容液から1株分離されたことから、今夏の手足口病の原因はCA16であると考えられた。
Echo 6はEV同定用プール血清EP-95では、EP1とEP5で中和されるが、今年分離されたEcho 6株はEP1による中和が弱く約1日しか抑えられなかった。中和が不十分な分離株について、VP2-4領域の遺伝子解析を行ったところEcho 6と同定された。抗原変異の可能性があるため、急遽Echo 6分離株の免疫血清を作製中である。
ヘルパンギーナが例年より早く流行し、また、優勢な流行株がなく、多種類の血清型が蔓延していることが今夏のEV流行の特徴であった。
愛媛県立衛生環境研究所 豊嶋千俊 山下育孝 近藤玲子 大瀬戸光明 井上博雄