
A群溶レン菌の菌体表層には、MおよびT蛋白等が存在しており、型別に利用されている。M蛋白は、耐熱性、トリプシン感受性、型特異的であり、100以上の型が知られている。M蛋白は、抗オプソニン作用を有し、細胞への接着にも関与しており、病原因子として知られている。分離株のM型別を行うことは病因との関連を知る上で重要であるが、継代による蛋白の脱落が生じることや、市販血清がないことから、M型別の実施は困難であり、一部の機関でのみ行われている。近年、M型別を血清学的方法ではなく、M蛋白遺伝子(emm )の領域を明らかにし、型別する試みもなされている。一方、T蛋白は病原性と無関係とされているが、T型別とM型別の菌型は相対すること、トリプシン耐性、型特異的、M蛋白に比べ安定性があり、さらに、継代に耐えうることから、疫学調査の手段として用いられ、多くの施設で実施されている。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者から分離された菌株のT血清型別とM蛋白質をコードするemm 遺伝子による型別を行った。2004年8月31日までに衛生微生物技術協議会レファレンスセンター(全国7カ所の支部ブロックセンター)を通じ、国立感染症研究所細菌第一部に集められた劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者分離株21株のうち、T12/emm12 が4株(19%)であった。続いて、T3/emm3 とT型別不能/emm89 が3株ずつ(14%)、のこりは、T1/emm1 、T型別不能/emm49 が2株づつで、T28/emm28 、T 型別不能/emm58 、T6/emm6 、T25/emm75 、T 型別不能/emm78 、T 型別不能/emm81 、T 型別不能/emm91 が1株ずつであった。
日本で初めて典型的な劇症型溶血性レンサ球菌感染症例が報告された1992年〜2003年まで、日本においては毎年T1/emm1 が最も分離頻度が高い型であり、他の国においてもT1/emm1 が劇症型溶血性レンサ球菌感染症分離株の主要な型である。しかしながら、日本において、今年は異なる流行を示している。すなわち、今年は今までのように特定の型が流行するということではなく、先に示したような様々な型株が劇症型溶血性レンサ球菌感染症を引き起こしているということである。今後、このように様々な型の株が流行する可能性が考えられるので、さらなる調査が必要である。
国立感染症研究所
池辺忠義 多田有希 登坂直規 岡部信彦 渡辺治雄
福島県衛生研究所 平澤恭子
富山県衛生研究所 田中大祐
神奈川県衛生研究所 鈴木理恵子
大阪府立公衆衛生研究所 勝川千尋 河原隆二
山口県環境保健研究センター 冨田正章
大分県衛生環境研究センター 緒方喜久代
東京都健康安全研究センター 遠藤美代子 奥野ルミ
 IASRのホームページに戻る
IASRのホームページに戻る Return to the IASR HomePage(English)
Return to the IASR HomePage(English)
