劇症型溶血性レンサ球菌感染症散発事例−群馬県

(Vol.25 p 255-256)

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(TSLS)は、重篤かつ致死率の高い疾患として、1980年代後半から国内でも報告されている。群馬県において、2000年7月〜2004年3月までに経験した本疾患例について以下に概要を報告する。

事例は2000年が1例(以下症例1)、2002年が4例(症例2、3、4、5)、2003年が1例(症例6)、2004年が1例(症例7)の計7例であった。年齢と性別の内訳は、6歳〜68歳までの男性2名、女性5名であった。症例4と7は6歳と11歳の女児であった。症例5の30代女性のみ重篤なショック状態から回復しているが、他の症例は発病から2〜3日で死の転帰をとった。基礎疾患は4例(症例1、3、6、7)にそれぞれ高血圧、胃潰瘍、肥満、リンパ管腫が認められた。これら症例はすべて散発的な発生であることが疫学的に推定された。

菌株のT型別は症例7がTB3264型で、他はT1型であった。発熱毒素遺伝子(spe-A, B, C )は症例7がspe-B のみの保有で、他はspe-A spe-B の両遺伝子を保有していた。薬剤感受性試験(MICroFAST 3J)では、これら菌株は供試した20剤のうちレボフロキサシン、バンコマイシンの2剤に低感受性を示したが、クリンダマイシンほかすべてに感受性であった。

上記症例でT1型を示し、spe-A, B 両遺伝子を保有する6株と症例6の家族由来株(T1型、spe-A, B 保有)の7株について、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施した()。制限酵素Sfi Iで3型に分類された(レーン1〜6は症例1〜6、レーン7は症例6の家族由来株)。レーン2と5の株は分離時期と地理的な差、レーン3と4の株は同じ地域で分離時期に若干の差、そして、レーン1と6、7(健常者)の株は同じ地域で分離時期に差があったものの、それぞれでPFGEパターンが一致した。

これらの調査から、同一あるいは極めて類似した遺伝学的性状を有する株が分離時期や地理的条件を越え、TSLS患者や健常者から分離されていた可能性がある。なお、本症に関しては、劇症型を引き起こす菌株の遺伝学的特性や発症のメカニズムなどにはいまだに不明な点が多いので、今後も十分な監視が必要であると考えられる。

群馬県衛生環境研究所
黒澤 肇 藤田雅弘 邊見春雄 橋爪節子 星野利得

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