2004年5月12日、富山県内にある医療機関で職員がパラチフスA菌に感染したことが判明した。職員は5月7日に発熱し、その医療機関を受診、抗菌薬を服用していたが、悪寒・発熱が続いたため入院となった。検査の結果、血液からパラチフスA菌が検出された。
この職員は医療機関で検査技師として細菌検査を担当しており、2004年4月中旬にネパールから帰国したチフス患者の便および血液検査を実施していた。患者と接する機会はなかったことから、検査の際に感染したことが疑われた。当衛生研究所において、患者と職員から分離されたパラチフスA菌について、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による染色体DNAの遺伝子学的解析をおこなったところ、両菌株の制限酵素切断パターンは同一であった(図)。また、ファージ型はいずれも4型であったことから、職員は患者分離菌に感染したと断定された。他の職員に感染者はいなかった。
この職員がどのような状況で感染したかは明らかでないが、原因調査において、血清型別試験を実施した際に感染した可能性が示唆されている。この医療機関では、「事故防止マニュアル」の中で手袋とマスクを着用することが明記されているにもかかわらず、職員は今回の検体および分離菌の取り扱い時に、一部手袋を着用しないで、素手で操作を行っていたことがわかった。
パラチフスA菌の検査は、感染する危険性の高い操作を伴い、なかでも必ず実施しなければならない血清型別試験では、生きた菌を用いて凝集確認を目視で行うため、感染する危険性がかなり高い。
このような感染事故を防ぐには、個人が細菌取り扱いの危険性を認識するだけでなく、バイオハザードという観点から、組織的にマニュアルの見直しと遵守を徹底しなければならない。
富山県衛生研究所 磯部順子 木全恵子 綿引正則