2004年6月30日にCDCは、臓器移植後に原因不明の脳炎で死亡した3人のレシピエントが、病理検査などにより狂犬病であったことを確定した。ドナーはアーカンソー州在住で、微熱を伴う精神状態の変化によりテキサス州の医療機関を受診し、くも膜下出血に合致する所見が得られ、48時間後に脳ヘルニアで死亡した。ドナー適格者検査では移植禁忌事項は認められず、ダラスのベイラー大学メディカルセンター(BUMC)にて肝、両腎(ともに5月4日)、および肺が4人のレシピエントに移植された。肺を移植されたレシピエントは術中の合併症で死亡した。他の3人のレシピエントは移植後5〜12日後に退院したが、術後21〜27日に再入院し、その後急激な神経学的徴候の悪化を認めて死亡した。3人のレシピエントから得られた脳組織の病理学的検査で、ネグリ小体様の封入体が確認され、直接蛍光抗体法による狂犬病ウイルス抗原検出により、確定診断された。レシピエントの脳組織、乳のみマウスへの接種後の脳組織の電子顕微鏡検査にて、ラブドウイルスが検出された。また、レシピエントの脳組織を用いた抗原検査では、コウモリに関連する狂犬病ウイルスバリアントに一致した。ドナーの血液で抗狂犬病ウイルス抗体が検出され、ドナーからの感染であったことが示唆された。臓器移植による狂犬病の感染としては、角膜移植による事例が5カ国で8例報告されているが、実質臓器の移植によるものは今回が初めてである。
アラバマ、アーカンソー、オクラホマ、およびテキサス州の当局の調査により、ドナーあるいはレシピエントとの接触があったと思われる916人のうち、174人(7月9日現在)に曝露後免疫が開始された。またその後の調査により、ドナーがコウモリに咬まれていたことが判明した。
臓器移植後に死亡した患者の調査結果からは、5月上旬にBUMCで肝移植を受け、6月上旬に神経学的徴候の悪化で死亡した症例についても、脳の免疫組織学的検査により狂犬病ウイルス抗原が検出された。この肝臓ドナーの組織および血液検査では、狂犬病ウイルス感染の所見が認められなかった。感染源は調査中であるが、狂犬病に感染したドナー由来の動脈片が感染源であることが示唆されている。接触者調査および曝露後免疫が行われている。
(CDC, MMWR, 53, No.26 & 27, 586-589 & 615-616, 2004)