イングランドおよびウェールズで2004年1月1日〜8月25日の間に、静注薬物使用者(IDU)で発生した創傷ボツリヌス症の疑い例27例が健康防護局(HPA)へ報告された。このうち25例はイングランドからの報告で、6例は臨床検査にて確定された。確定例のうち3例が1〜2月にかけてロンドンで、残り3例は6〜7月にかけて北東イングランドで発生した。疑い例の報告は、特に北東および北西地域から続いている。
2003年には、IDUにおける確定例7例を含む14例の創傷ボツリヌス症症例が報告された。英国およびアイルランド共和国において、2000年3月〜2002年12月の間に33例の臨床診断症例が報告されている。2000年以前には報告はなかった。33例のうち20例は血清中のClostridium botulinum 神経毒素の検出、あるいは傷口の組織や膿からのC. botulinum 培養により確定された。2002年9〜10月には、汚染されたヘロインに関連したと考えられる創傷ボツリヌス症8例の集団発生が1件報告されている。
創傷ボツリヌス症は、C. botulinum の芽胞が傷口に付着して発芽し、体内でボツリヌス神経毒素を産生することによりおこる。無熱性で下行性の弛緩性麻痺をみた臨床医は、ボツリヌス症を疑うべきである。ボツリヌス抗毒素は早期に投与すれば、あらゆるタイプのボツリヌス症の症状の軽減に効果があり、微生物学的検査の結果が出るまで投与を控えるべきでない。また、創傷ボツリヌス症では菌の除去と再発防止のため、抗菌薬投与と汚染組織の外科的除去が必要である。C. botulinum にはベンジルペニシリンとメトロニダゾールが有効である。ヨーロッパ地域では今までに、この他スイスとノルウェーでIDUにおける創傷ボツリヌス症の報告があるが、未報告例も多いと考えられる。
(Eurosurveillance Weekly, 8, Issue 39, 2004)