2004年8月、堺市内飲食店の仕出し弁当を喫食した大規模食中毒事例からSalmonella Infantisが検出されたのでその概要を報告する。
8月7〜9日に調製された仕出し弁当を喫食した85グループ609名のうち、366名が胃腸炎症状を発症していることが判明した。
患者発生状況および臨床症状は図1、図2に示すとおりである。平均潜伏時間は27時間と推定された。
病因物質究明のため直ちに原因施設への立ち入り調査が行われ、調理器具等のふきとり10検体、井戸水(床洗い用であり、飲用等への使用はしていない)2検体、食品残品35検体および一次加工品(1週間に1度程度、原材料をカット、味付け、加工等を行い、冷凍で保管しているもの)36検体、調理従業員便11検体を採取した。有症者便16検体を合わせて合計110検体についてウイルス学的、細菌学的検査を行った。ノロウイルスは有症者の初期の便8検体について、GI、GIIプライマーを用いたRT-PCRを行った。
ふきとり・食品残品・一次加工品はEEMブイヨンで前増菌を行い、セレナイト・シスチン培地で増菌し、定法に従い分離・同定した。井戸水は1.5lをメンブランフィルター(0.45μm)で濾過し、同様に分離・同定を行った。
ノロウイルスはすべて陰性であったが、有症者便7検体、調理従業員便5検体、井戸水1検体、一次加工品2検体、合計15検体からS . Infantisが分離された。井戸水におけるS . Infantisの菌数(MPN法)は< 3/100MPNであり大腸菌群陽性、一般細菌数は 4.8×103/mlであった。冷凍で保存されていた一次加工品のわかさぎ(揚物用)とさけの切り身(焼物用)から本菌が分離され、その菌数(希釈平板塗抹法)はそれぞれ<100/gであった。
分離された15菌株すべてについてパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子解析を行った。Bln IおよびXba I制限酵素による切断パターンを比較したところ、すべて同一泳動パターンを示した(図3)。
井戸水は床洗い用であり飲用として使用されておらず、その後の汚染確認を把握するため約1週間隔で2回細菌検査を行ったが本菌は分離されなかった。理化学的検査においても硝酸態窒素および亜硝酸態窒素の値が高く、井戸水を汚染源と断定するには根拠が乏しかった。むしろ、井戸水は施設の生活排水等による一時的な汚染と考えられた。
原因食品となった仕出し弁当には、ご飯類5種類、焼物10種類、煮物31種類、さしみ7種類、揚物29種類、フル−ツ11種類、彩り9種類、その他17種類、計119種類の食材の組み合わせで24種類の弁当が調製されていたが、食中毒発生時には食べ残し食品もなく、さらに検食も保存されていなかった。しかし、冷凍保存されていた一次加工食品から本菌が分離されたことから、これらの食材は、S . Infantisに汚染された食品、または従業員の手指を介して汚染したものと推測された。さらに、本菌が分離された一次加工食品は、仕出し弁当調製時には揚物や焼物として加熱調理されるものであり、これらが原因食材であるとの結論には根拠に乏しかった。むしろ、従業員便より本菌が分離されたこと、従業員の共通食は賄い食だけであり、原因食の仕出し弁当を喫食していないことや、盛り付け作業を素手で行っていたことなどから、本事例は健康保菌者の調理従業員を介して、仕出し弁当が汚染された可能性が高く示唆された。しかしながら、調理従業員5人がいつどのようにして、同時に、あるいは時間差をもってS . Infantisに曝露されたのかの原因究明はできなかった。
今回の事例は、食中毒予防3原則のひとつである「つけない」という予防意識の欠如が誘引となった典型的な事例と考えられた。施設の大小を問わず、調理従業員には、今後いっそうの食中毒予防知識の啓発が必要と考える。
堺市衛生研究所
大中隆史 横田正春 山内昌弘 中村 武 内野清子 田中智之
堺市保健所 中口博行 浦崎健次