金沢市全体の水痘流行状況と集団発生のあった保育所への調査

(Vol.25 p 326-327)

金沢市には、 112の認可保育所(うち公立保育所15カ所)があり、約11,000名が在園している。当市では2000年5月より、認可保育所での感染症流行状況を把握するため、感染症流行把握事業を実施している。各保育所は月末に1カ月間に感染症に罹患した園児数を疾患ごと(17疾患を対象)に把握し、翌月初めに市(こども福祉課)保育研修所に疾患ごとの罹患園児数を報告している。報告されたデータは市に集積され、金沢市全体の流行状況を各保育所に還元している。このシステムによって、2003年秋以降、水痘罹患児の急激な増加傾向(9月42名、10月116名、11月224名)が把握された。

2003年10月〜12月の3カ月間に報告された水痘に罹患した園児は、金沢市全体で681名で、保育所ごとに在籍園児数に対する罹患園児の割合を112園すべてからの報告をもとに割り出し、地域ごとの流行状況の把握を試みたグラフを図1に提示する。金沢市の保育所は6つの地域に区分されており、今回の流行は東部、南部、西部の山手方面が主で、海沿いの保育所の流行は比較的小規模であった。しかし、同じ区域の保育所であっても、流行状況のばらつきは大きく、55の保育所ではこの3カ月間に水痘罹患園児の報告はなかった。今回は、全園児の半数以上が水痘に罹患した西部地区A保育所(罹患率50.0%)と東部地区B保育所(罹患率62.0%)の2カ所の保育所での流行状況を調査し、感染終息後、両保育所の保護者を対象にアンケート調査を行った。

A保育所は園児数 132名、子どもを預けている家庭の8割は母親がフルタイムで仕事をしており、午前7時〜午後7時までの12時間開園している。この園は2階建てで、0〜3歳児は1階、3〜5歳児は2階で保育されており、2階の教室に在籍していた3歳児が10月10日に発症した。その後潜伏期間を経て、二次流行、三次流行と1階で保育されている年少児、乳児へ感染が波及し、最終的にはちょうど半数の園児(66名)が罹患した。この園では4年ほど前に水痘の集団発生があったため、今回の年長児の罹患率は低かった(図2)。

一方B保育所には70名の園児が在籍し、同様に母親がフルタイムで仕事をしている核家族の家庭が大半である。10月7日に水痘を発症した2歳女児(2週間前に名古屋に帰省、女児の2週間後に父と弟発症)が発端となった。このインデックスケースから、同じ2歳児クラスに潜伏期を経て集団発生が起こり、同じフロアにある3歳児クラスを中心に三次感染が起こり、その後年齢の小さい子に流行が波及した。特に3歳未満の乳幼児のクラスはほぼ全員が罹患したが、A保育所同様に4年前に園内での水痘集団発生があったために年長児の罹患率は低かった(図3)。

両園とも、集団発生時のワクチン緊急接種の認識は低く、「はやってきたのならうちの子もうつればいい。」という保護者もいたが、感染期に登園を控えるマナーは比較的よく守られていた。園側は、玄関の掲示板等で水痘患者が出たことを周知し、保護者に注意を促した。重症化や合併症のため入院加療を必要とした園児はなかった。

2003年12月中旬以降には両保育所とも感染が終息したので、翌1月初めにA、B保育所の保護者を対象に子どもの罹患状況、ワクチン接種状況、罹患したことによる家族の負担等のアンケート調査を試みた。アンケートは無記名で、約1週間の回収期間を設定し、回収率は約77.0%、回答家庭世帯当たりの子どもの人数は約1.97人であった。

アンケート回答家庭のすべての子ども(0〜18歳) 250名の水痘ワクチン接種率は7.6%(19名)であった。しかしこのうち3人は今回の集団発生で水痘を発症、つまりvaccine failureであった。一方、今回の集団発生で発症した子ども(98人)を含めた罹患率は89.2%(223名)であった。

アンケート回答127家庭の核家族率は74.0%(94家庭)であった。このうち、母親が就業している118家庭のうち、「子どもの病気などで仕事を休むのは難しい。」と回答したのは24.6%(29家庭)、職場に気兼ねしながら休みをとっているのは57.6%(68家庭)であった。

今回水痘に罹患した園児を抱えた78家庭の、病休時の家族の応援体制については、母親が仕事を休んで看病にあたった家庭は57.7%(45家庭)で、3〜4日仕事を休んでいた。何らかの形で祖父母の協力を得ることができたのは48.7%(38家庭)であった。しかし、仕事を休むことに対する職場への気兼ねを感じたのは50.0%(39家庭)、祖父母への気兼ねがあったのは43.6%(34家庭)で、子どもの病状(重症化や合併症など)が心配であったと回答した32.1%(25家庭)を上回っていた。また、今回の集団発生で園児1名が罹患した場合の欠席日数(祝日は含まない)は平均5.93日で、2人になると合わせて11.6日であった。

アンケート回答127家庭の保護者の水痘ワクチンについての考え方は、「接種しなくても罹ればいい。」44.1%(56家庭)、「ワクチンのことをよく知らなかった。」20.5%(26家庭)、「料金が高いので受けない。」が16.5%(21家庭)であった。しかし今回罹患した子どもの親は、「水痘は流行したときに罹ればいいと思っていたが、ワクチンを接種しておけばよかった。」と罹患した子どもを持つ多くの保護者が述べており、水痘ワクチンの公費負担制度を望む声も多くあった。

金沢市福祉保健部健康推進局保健衛生課 越田理恵

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