世界における水痘生ワクチンの使用

(Vol.25 p 330-331)

日本で開発された岡株水痘生ワクチンは、1984年にヨーロッパでハイリスクの子供を対象に認可され、1986年には国内でも認可された。その後韓国や米国などでも認可されるようになり、その有効性および安全性からみて1985年からは世界保健機関(WHO)によってもっとも望ましい水痘生ワクチンであると認められている1)。その後使用経験が広がるにつれ、その安全性と効果が世界で広くみとめられ、より多くの国々で受け入れられつつある。

WHOは、1998年に発表した「水痘ワクチンの予防接種プログラム導入に関する方針説明書(WHO Position on Varicella Vaccines)2)」において次のように述べている(抄訳)。「1)発展途上国においては、社会の疾病負担から考えるとB型肝炎ワクチン、インフルエンザ菌b型ワクチン、そして肺炎球菌ワクチンの方が通常優先されるべきであり、水痘ワクチンを定期予防接種プログラムに組み入れることは現時点では推奨されない、2)温帯にある先進国では、すべての子供が感染する可能性および疾患による社会的なコストの高さからみると、水痘は比較的重要な疾患である。水痘ワクチンを子供への定期予防接種に組み入れることは費用対効果の点からも支持される、3)すべての子供を対象とした定期予防接種(routine childhood immunization:注)への導入は、疾患の疫学に大きく影響する。持続して高い接種率が得られれば水痘は長期的には根絶されるかもしれない。もし接種率が高くなければ、患者の年齢を押し上げ、年長児や大人の重症患者の増加につながるかもしれない。よって、子供への定期予防接種とする場合は、持続して高い接種率が得られることを目指すべきである。」

水痘の疫学とワクチンの使用経験に関しては米国から多くの報告がある。米国におけるワクチン導入前の水痘による疾病負担は、年間患者約 400万、平均年間入院数11,000人、そして平均年間死亡数 100例にのぼった3)。水痘ワクチンは1995年に認可され、翌年米国予防接種諮問委員会(ACIP)は定期接種スケジュールに組み入れた。米国において予防接種は、各人が持つ医療保険の種類によりカバーされうる。しかし、そうならない場合でも、ACIPのスケジュールに組み込まれているワクチンは原則として公費負担の対象となる。現在、水痘ワクチンの標準接種年齢は12〜18カ月であるが、それより上の年齢の子供でも確実な罹患歴がなくかつ未接種の場合は接種対象となる。米国の水痘サーベイランスにもとづく疫学データでは、13歳以上の年齢で罹患した場合、重症化したり合併症を伴う頻度が増加することが報告されている。また健康な感受性者の予防接種による抗体陽転率は思春期以降に低下することがしられている。このため13歳以上で確実な罹患歴がなくかつ未接種の場合は、免疫を確実に付与するために2回接種の対象となる。米国で毎年行われる接種率の全国調査では、2002年の接種率は81%となっている。1995年から水痘の強化サーベイランスを行っているカリフォルニア州、テキサス州、ペンシルベニア州にある3つの地域では、接種率は73〜83%であり、年間患者数は71〜84%減少し、入院患者数も激減したと報告されている3)。

2004年時点ですべての子供に予防接種を推奨している国は、米国以外に韓国、カナダ、オーストラリア、フィンランドなどである。また、それ以外の国でも部分的な接種勧告を行っている国は少なくない。例えば、ドイツでは罹患歴のない12〜15歳の子供に、スウェーデンでは罹患歴のない13歳以上の子供に、オーストリア、イギリスでは抗体陰性の医療従事者に、ベルギー、フランス、イタリアなどではハイリスクの患者になどである4)。

これまで諸外国で行われた医療経済学的評価によると、医療費に家族の看護費用を含めた場合、すべての子供(年齢は研究により異なる)に対して水痘ワクチンの接種を行うことの費用対効果は大きいとする報告が多い4)。このために、子供への接種を推奨する国は今後増加することが予測される。

(注)日本では「定期予防接種」とは、予防接種法で規定された公費負担のある予防接種と理解されているが、これが日本以外の国に必ずしもあてはまるわけではない。法によらず、また公費負担がなくても、保健省(厚生省)や保健分野の研究・学術団体が国民に接種を広く推奨する予防接種は定期接種(英語ではroutine immunizationまたはuniversal vaccinationなど)と呼ばれることが多い。海外の文献を読む際にはこの点で注意が必要である。

 文 献
1) WHO, Requirements for varicella vaccine, WHO technical report series 725, 1995
2) Weekly Epidemiological Record 73: 241-248, 1998
3) Seward J. et al., JAMA 287: 606-611, 2002
4) Consensus: Varicella vaccines of healthy children: a challenge for Europe, Pediatric Infectious Disease Journal 23: 379-389, 2004

国立感染症研究所感染症情報センター 田中政宏

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