大腸菌O115が原因と考えられた食中毒事例−宮城県

(Vol.25 p 339-340)

2004年8月、宮城県内の合宿所において、発症者103名の腸管病原性大腸菌(EPEC)O115:H19によると考えられた集団食中毒が発生したので、その概要を報告する。

8月10日、某消防本部から管轄保健所に「総合運動公園で高校生複数が食中毒様症状を呈し、救急車で搬送している」旨の連絡があった。保健所の調査の結果、総合運動公園では、県内の高校9校から集まった生徒131名および競技指導者17名、計148名が8月8日から合宿中で、そのうち生徒100名、競技指導者3名、計103名(発症率69.6%)が、腹痛(83%)、下痢(82%)、吐き気(27%)、頭痛(24%)、発熱(19%)などの症状を呈していた。発症者の行動調査から発症者間での感染の可能性は考えられず、また、合宿所の使用水は上水道を受水し、残留遊離塩素濃度も適正であった。一方、発症者の共通の食事が、合宿所での8日夕食、9日の朝食・昼食・夕食の4回であったことから、合宿所の食事を原因とする食中毒と考えられた。しかし聞き取り調査から発症者数は10日午前4時頃〜6時頃に20名(19.4%)と最多であったが、それ以前の9日午後6時頃〜8時頃にも14名(13.6%)の発症が認められるなど、どの共通食事が原因であったのか推定はできなかった。

8月10日〜13日にかけて、発症者便59件、調理従事者便5件、食品等54件の合計118検体が当センターに搬入され、細菌検査として病原大腸菌、赤痢、サルモネラ、エルシニア、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、ウェルシュ菌、セレウス菌およびビブリオ属菌の検索を、また、ウイルス検査としてノロウイルス、ロタウイルス、アストロウイルス、アデノウイルスの検索を実施した。

その結果、便64件中20件から大腸菌O115が検出されたが、それ以外の食中毒菌およびウイルスは検出されなかった。検出菌20株の生化学的性状、H血清型および保有病原因子の鑑別、薬剤感受性、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析を行い、その主な結果をに示した。検出菌20株はすべて典型的な大腸菌の生化学性状を有し、H血清型はH19であった。また、PCR、RFLPおよびELISA法で検索した病原因子の違いから、検出菌株は毒素原性大腸菌(ETEC)、組織侵入性大腸菌(EIEC)、腸管出血性大腸菌(STEC)および、凝集粘着性大腸菌(EAggEC)に該当せず、腸管病原性大腸菌(EPEC)と考えられた。

次に、検出菌20株について制限酵素Xba Iを用いPFGE法でDNA切断パターンを比較した結果、2菌株は48.5kbp〜485kbpの領域内でバンドの欠落がみられたが、残り18菌株は同一パターンを示した。また、ドライプレート(栄研化学)を用いた微量液体希釈法による薬剤感受性試験の結果、検出菌20株は、ABPC、PIPC、CEZ、CTM、CAZ、CCL、FOMX、CPDX、AZT、IPM、MEPN、GM、AMK、MINO、FOM、LVFX、STの17薬剤すべてに感受性であり、同一菌由来と考えられた。

以上のことから本事例は、EPEC O115:H19を原因とする食中毒と確定した。なお、調理従事者便や食品等から当該菌は検出されなかったため、原因食品および食事の特定はできなかった。

今回検出したEPEC O115:H19は当センターにおいて過去の食中毒事例から検出したことのない血清型であった。現行では、STECおよびETEC以外の下痢原性大腸菌についての有効な簡易な鑑別法がないことから、本事例では市販血清による病原大腸菌の血清型別を行い、次にPCR法による各病原遺伝子の検出を試みた。結果として腸管定着遺伝子eaeA およびBFP線毛遺伝子bfpA の保有を確認し、EPECと確定した。

大腸菌は環境から多く検出されることから、食中毒や感染症の原因菌としての検査には、その病原性の確認が必要であり、PCR法等による病原因子遺伝子の確認は不可欠であると思われる。さらに、本事例では検出菌株が市販大腸菌O血清で型別されたが、型別できない大腸菌による食中毒事例の報告もあることから(加藤玲ら、感染症誌 76: 721-729、2002)、下痢原性大腸菌の鑑別には病原遺伝子を検出する方法が最良であると思われた。

最後に、本事例に関する資料を提供していただきました関係保健所の方々に感謝いたします。

宮城県保健環境センター
渡邉 節 川野みち 小林妙子 山田わか 谷津壽郎 齋藤紀行 秋山和夫 川向和雄

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