本年(2004年)は、東京都の感染症発生動向調査定点から、昨年より2週早い、第41週に3名、第42週には26名のインフルエンザ患者発生が報告された。これらの報告は都内の幼稚園で発生したインフルエンザ流行によるものであった。
これらの定点からの報告により東京都では、園児が受診した医療機関の協力を得て積極的疫学調査を実施した。この調査により採取した検体は,インフルエンザ簡易診断キットにより陽性と判定された幼稚園児2名、同園に通う他の園児の母親1名、他の幼稚園児2名の咽頭ぬぐい液計5検体である。園児らの臨床症状は、38.6〜40℃の発熱,関節痛および上気道炎症状で、典型的なインフルエンザ症状を呈していた。
採取した5名の咽頭ぬぐい液について、PCR法による遺伝子検査およびウイルス分離検査を実施した。その結果、5名全員からインフルエンザウイルスAH3型の遺伝子を検出し、PCRプロダクトを用いたダイレクトシーケンスによりHA領域の塩基配列を決定し、分子系統樹解析を行った結果、A/Wyoming/3/2003(H3N2)株を含んだ群に大別されるものの、そこから分枝した株であることが判明した(図1)。
また、MDCK細胞に接種後4日目に3名の検体でCPE(細胞変性効果)を確認したことから、国立感染症研究所配布のインフルエンザサーベイランスキットならびにデンカ生研製ワクチン株抗血清を用いたHI試験(0.7%のモルモット赤血球液を使用)によりウイルス株の同定を行った。その結果、A/New Caledonia/20/99株(ホモHI価 1,280倍)およびB/Shanghai(上海)/361/2002株(同 1,280倍)に対しては10倍以下、A/Panama/2007/99(H3N2)株(同 5,120倍)に対して80倍、A/Wyoming/3/2003(H3N2)株(同 5,120倍)に対して2,560〜5,120倍のHI価を有していたことから、今回分離したすべての株は、今季ワクチン株であるA/Wyoming/3/2003(H3N2)株と高い交叉反応性を持つA香港型(AH3)株であることが明らかになった(表1)。
この調査後も同地区の医療機関から、第43週に19名、第44週には29名、第45週には37名のインフルエンザ患者の報告があり、なおも地域流行が続いているものと思われる。
東京都健康安全研究センター微生物部・ウイルス研究科
新開敬行 長谷川道弥 田部井由紀子 岩崎則子 貞升健志 甲斐明美 諸角 聖
東京都福祉保健局健康安全室感染症対策課
植松たえ子 阿保 満