−数カ所の病院・クリニックの継続的研究−
緒言と方法:ロタウイルス胃腸炎は乳幼児のウイルス性胃腸炎として重要な疾患であるとともに、開発途上国での小児の主要死亡原因として問題視されている。現在、ロタウイルスのワクチンの開発および市販化に向けての作業が進んでいる。流行しているA群ロタウイルス(ロタウイルス)の血清型を知ることはより効果的なワクチンを開発するために必要なことである。さらにロタウイルスの遺伝子レベルでの解析も必要になってくる。ロタウイルスの血清型は型特異的なモノクローナル抗体が作製され、市販化されることにより簡便になった。しかしながら、市販されているモノクローナル抗体に反応しないロタウイルスが見出されるようになった。一方、型特異的プライマーを用いたRT-PCRは、費用がかかるがGタイプ(VP7遺伝子)とともにPタイプ(VP4遺伝子)も決めることができ、ウイルスの動向をみるのに有用である。
我々は、1984年から現在に至るまで、札幌、東京、舞鶴、大阪、佐賀(あるいは久留米)の病院およびクリニックの外来から小児の糞便検体を得て、ロタウイルス型別のモノクローナル抗体を用いた酵素抗体法あるいは型特異プライマーを用いたRT-PCRでG血清型(遺伝子型)を経年的に調べてきた。毎年約500検体で、そのうち30%前後がロタウイルス陽性であった。ここでは全国の成績をまとめて各血清型の割合を図示した。また、G9については、遺伝子解析の結果を含めて報告する。
結果:図1には、G血清型の変動を示した。1980年後半よりG1が40%から次第に上昇して、1990年代には80〜90%を示すようになった。しかしながら2000年ごろから急激にG1型が減少してきて2002/03には10%以下となった。G2は時に20%位を示すことがあり、2000〜2002年頃には30〜40%を示した。2002/03にはG3、G4が比較的上昇してきたが、今後の推移を見る必要がある。
G9については世界的傾向とも関連し1999〜2003年に20%前後を示した。現時点では急激な上昇はみられない。図2はG9の全塩基配列での比較を示す。現在G9は3つの亜型(lineage)に分けられる。その中で、116E(インドでの株)はG9-Iに、1980年代のわが国のAU32やF45はG9-IIに、我々の1998〜2002年の検体はG9-IIIに属した。G9-IIIのなかでも1998/99のものは1999〜2002年とはやや異なる傾向を示した。
考察:ロタウイルスのG血清型の頻度が年によって変化していることがわかった。特に1990年代にはG1が多くを占めていたが、2000年代になって著しく減少した。このことは、多くの日本人がG1に対する抗体を持つようになったため、G1の伝播が少なくなったからかもしれない。しかしながら今後、納得できる説明を求めて研究が必要である。G9は世界的な流行が見られたが、我々の報告では20%位までの頻度で見られたにすぎない。一方、タイ国チェンマイではG9が最近90%以上までに上昇している(私信)。1980年代にG9がわが国で認められている(F45、AU32)が、当時我々はモノクローナル抗体を得ることができず、またRT-PCRでの検査が開発されていなかったため、G9の成績を持ち合わせていない。さらに当時の検体を現在持ち合わせていないため今後検査を行うことができない。G9の中でも、亜型が変化してきていることがわかった。このことはG9だけでなくG1〜G4にも共通することと思われる。このようにしてロタウイルスにおいて大きな血清型の変化を認めながら、また同一血清型内での変異による亜型が流行しているように思われる。この原因には抗体保有率や世界的なウイルスの移動や新しい組換えなどが考えられるが、今後の検討課題である。
謝辞:これらの検体採取は、兼次邦男、金保洙、山本あつ子、西村修一、上田勇一、中谷茂和、西村忠史、杉田久美子、黒岩利正、本廣 孝の諸先生のご協力によった。
文 献
1) Zhou Y, et al., Pediatric International 42: 428-439, 2000
2) Zhou Y, et al., J Med Virol 65: 619-628, 2001
3) Zhou Y, et al., Microbiol & Immunol 47: 591-599, 2003
東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻発達医科学
牛島廣治 朱 蕾 Phan T.G. 沖津祥子