1971〜1990年の20年間における各種疾患からのロタウイルス検出状況−愛知県

(Vol.26 p 8-10)

A群ロタウイルス(ロタウイルス)は冬季に乳幼児が感染する急性胃腸炎の原因ウイルスであり、臨床的には乳児嘔吐下痢症とされ、他のウイルス性下痢症とは区別されていた。そこでわれわれは各種疾患患者からのロタウイルス検出を行い、ロタウイルスと疾患との関連性を明らかにするとともに、VP7のG血清型の年次推移についても検討したので報告する。

方法:愛知県下の小児科を受診した乳幼児を対象とし、そのうち乳児嘔吐下痢症と診断されたもの1,047名、感染性胃腸炎713名、上気道炎895名、下気道炎1,252名、無菌性髄膜炎1,592名、その他の疾患4,886名および健康者631名、計11,016名の糞便を検査材料とした。ロタウイルスの検出はCapture抗体として抗Waウサギ血清とdetector抗体として抗Waモルモット血清を用いたサンドイッチELISA法で行った。G血清型別は市販のモノクローナル抗体(ロタMA、セロテック社製)を用いて行った。なお、モノクローナル抗体による型別不能のものはG1、2、3、4型についてRT-PCR法による型別試験1)を行った。

成績:各種疾患患者からのロタウイルス検出状況では乳児嘔吐下痢症患者が最も検出率が高く1,047名中396名(38%)で、検出された血清型はG1が最も多く、次いでG2で、G3およびG4はG1、G2型に比べると少ないもののほぼ同数検出された(表1)。また、少数例ながらロタウイルスの混合感染も認められた。

感染性胃腸炎患者では713名中76名(11%)から検出され、血清型ではG1が多く、次いでG4、G2で、G3は1名であった。下痢症以外の疾患からは上気道炎が3.0%と低い検出率で、下気道炎はさらに低く、全体では1.4%から検出されたにすぎなかった。

1971〜1990年の20年間におけるロタウイルスの年別検出状況を表2に示した。各年は4月〜3月をその年とした。1971年〜1978年の間では例数が少ないもののG1とG3がほぼ同数検出された。1978年にG4、1980年・81年はG4、1982年はG1、1983年はG2、1984・85年はG1、1986年はG2、1988年〜1990年はG1が多く検出された。年により主流となる血清型が異なるものの、G1が最も多く見られた。

年齢別ロタウイルス検出率では0歳および1歳からの検出が84%を占めた(図1)。なお、0歳の多くは生後6カ月〜1歳未満であった。2歳以降は加齢とともに検出数が低下した。年齢が4歳以上から検出されたのはG2が最も多く11名、G4が5名、G1が4名であった。

月別ロタウイルス検出状況では次ページ図2に示したように、12月から多く検出されるようになり、1月がピークで、その後2月、3月と減少した。12月〜2月の間には全体の77%が検出された。なお、少数ながら5〜9月にも検出された。

考察:乳児嘔吐下痢症はロタウイルスによる急性胃腸炎を対象としていたことから、最も高い検出率であり、疾患名と病因ウイルスが良く一致した結果が得られた。乳児嘔吐下痢症を除く感染性胃腸炎患者からの検出率は11%で、他のウイルスが関与していることが示唆された。その他の疾患の検出率は1.4%であった。このことからロタウイルスは乳児嘔吐下痢症、感染性胃腸炎以外の病因ウイルスになることはほぼ無いものと考えられた。

1971〜1990年におけるロタウイルス感染症は主に0歳〜1歳を主体に、12月〜2月に、乳児嘔吐下痢症を起こしていたと考えられた。

G血清型では1971〜1990年の間はG1が優勢であったものの、年により主流となる血清型の変遷が認められた。

まとめ:ロタウイルス感染症は主として冬季に乳幼児に急性胃腸炎を起こしており、年により血清型の頻度が異なっていた。

謝辞:本研究は愛知県衛生研究所で行ったものであり、検体の採取等に協力いただいた愛知県衛生研究所・栄 賢司博士をはじめ諸先生方に深謝します。

 文 献
1) Gouvea,V et al., J Clin Microbiol 50:157-172, 2000

国立感染症研究所感染症情報センター 西尾 治

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