2004年3月に県内小学校1校および幼稚園2校において、A群ロタウイルスによる集団胃腸炎が発生したので、その概要を報告する。
事例1:2004年3月9日にA小学校3年生で集団胃腸炎が発生し、学級閉鎖が行われた旨、管轄保健所に連絡があった。保健所が調査をしたところ、3月3日〜3月12日までに、全校在籍者755名中205名(27%)が胃腸炎症状を呈していた。有症者の在籍学年は1年生〜6年生まで分布していたが、発症日が一定していないこと、学年ごとの発症率に差があること、および同じ給食を食べている職員では有症者がいないことから、食中毒とは考えられず、感染経路は不明であった。
3月10日〜12日までに3年生7名から採取された糞便について病原体検索を行ったところ、ラテックス凝集法を用いたキット[ロタアデノドライ、第一化学薬品(株)]により5名の糞便からA群ロタウイルスが検出された。また、7名とも、ノロウイルス、C群ロタウイルスおよび既知の病原細菌は検出されなかった。このため、当事例は、A群ロタウイルスを原因とする集団胃腸炎であると考えられた。
事例2:2004年3月8日にB幼稚園で学級閉鎖された事例では、在籍者126名中14名(11%)が胃腸炎症状を呈していた。当該幼稚園には4歳児学級2クラスおよび5歳児学級2クラスが設置されているが、有症者14名中10名が4歳児学級1クラスの在籍者であった。当該幼稚園では給食は提供されていないが、3月5日に在籍者全員が出前のサンドイッチを摂食していた。しかし、クラスごとの有症者数に差があることなどから、食中毒とは考えられなかった。3月9日に有症者6名から採取された糞便について病原体検索を行った結果、5名の糞便からA群ロタウイルスが検出された。また、いずれの検体からもノロウイルスは検出されなかった。そのため、当事例はA群ロタウイルスを原因とする集団胃腸炎であると考えられた。
事例3:2004年3月2日〜11日にかけて、別のC幼稚園で集団胃腸炎事例が発生した。当事例では、在籍者169名中23名(14%)が胃腸炎症状を呈していた。当該幼稚園には3歳児学級1クラス、4歳児学級2クラス、および5歳児学級2クラスが設置されている。23名の有症者のうち、7名は3歳児学級、14名は4歳児学級1クラスおよび2名は4歳児学級の他クラスの在籍者であった。5歳児学級では有症者は認められなかった。
当該幼稚園でも給食は提供されていないが、3月4日に5歳児学級の園児が保護者および職員と食事を作り全園児に提供する行事が行われていた。しかし、学級ごとの有症者数に差があることなどから、この食事が原因とは考えられなかった。3月9日および10日に、3歳児学級園児3名および4歳児学級園児4名から採取された糞便について病原体検索を行ったところ、7名全員からA群ロタウイルスが検出されたため、このウイルスを原因とする集団胃腸炎と考えられた。
これら3事例でA群ロタウイルスが検出された一部の糞便よりウイルスRNAを抽出し、ウイルス性下痢症診断マニュアル(第3版)(平成15年・国立感染症研究所発行)に記載されたGouveaらの方法により、RT-PCRによるG血清型別を行った。その結果、事例1および事例2から検出されたウイルスのG血清型はG3であり、事例3から検出されたウイルスのG血清型はG4であった。
2002年1月〜2004年4月までに散発例の感染性胃腸炎患者より検出されたA群ロタウイルス38件について、同様にG血清型別を行った結果、34件についてG血清型別が判明した。表に年ごとの血清型分布を示す。散発例からはG1、G2、G3およびG4の4種類の血清型が検出されたが、いずれの年においても、G3が最も多く検出された。今後P血清型別等のより詳細な解析を行う必要はあるが、集団事例の原因ウイルスは、県内で流行している散発性胃腸炎の原因ウイルスと近縁である可能性がある。
集団事例の検体採取ならびに疫学調査結果を提供いただいた県内保健所関係各位に深謝します。
滋賀県立衛生環境センター・微生物担当
吉田智子 大内好美 川端彰範 井上朋宏 林 賢一