2004年5月〜6月に発生したノロウイルスによる集団胃腸炎3事例−京都市

(Vol.26 p 17-17)

2004年5月〜6月に、京都市内で発生したノロウイルスを原因とする集団胃腸炎の事例3件について報告する。なお、ノロウイルスの検査については、2003(平成15)年11月5日付厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長通知「ノロウイルスの検出法について」に従って実施した。これらの事例で検出したGIIの検査はプライマーG2-SKF/G2-SKRでRT-PCRを行い、RT-PCRで陽性であった検体についてハイブリダイゼーションを実施した。また、食品等についてはプライマーCOG2F/G2-SKRで1st PCRを行った後、プライマーG2-SKF/G2-SKRでNested PCRを行った。ハイブリダイゼーションについてはIshikoのプローブを用いた。

事例1・社会福祉施設で発生した食中毒事例:6月4日、社会福祉施設の入所者60人中20人が、2日の夕方から下痢,発熱等の症状を訴えていると、京都市内の医療機関の医師から保健所に届出があった。当該保健所が調査したところ、5月28日に嘔吐した人を初発として、入所者58人中25人、職員36人中8人が、6月3日を中心に嘔吐、発熱、下痢等の症状を呈していることが判明した。

有症者を含む入所者の便34検体、調理従事者便7検体、5月25日〜6月2日までの検食149検体、手指および器具ふきとり16検体の合計206検体について食中毒の原因となる細菌およびノロウイルスの検査を行った。その結果、有症者便18検体、調理従事者便2検体、5月30日、6月1日および2日の給食の一部からノロウイルスGIIを検出した。

5月28日を初発とし6月1日〜3日をピークに発症していることから、初発有症者から調理従事者に感染し、給食を介して施設の入所者が発症した可能性の考えられる事例であった。

事例2・小学校で発生した事例:6月10日、下痢、嘔吐の症状で多数の児童が欠席していると学校医より保健所に連絡があった。調査の結果、全校児童数637人中61人が欠席していた。欠席者は2年生のAクラスに25人おり、その他のクラスでも数人ずつ欠席していた。欠席者のほとんどが前日より嘔吐、下痢、発熱の症状を呈していた。また、教育実習生、教師(ともにAクラス以外)および給食調理従事者が1人ずつ同様の症状を呈していた。11日の欠席者は55人でそのうち2年生のBクラスが11人であった。AクラスとBクラスは同じ階に教室が並んでおり、使用するトイレも同じであった。その他の有症者もA、Bクラスと同一階に教室がある児童ばかりであった。

児童の有症者便34検体、調理従事者便6検体、検食44検体、手指および器具ふきとり17検体の合計101検体について、食中毒の原因となる細菌およびノロウイルスの検査を行った。その結果、有症者便32検体と調理従事者便2検体からノロウイルスGIIを検出した。検食やふきとり検体からはノロウイルスは検出されなかった。陽性となった調理従事者のうち1人は10日に発症しており、残りの1人は無症状であった。

調理従事者2人からもノロウイルスが検出されたことから、給食の二次汚染の可能性も否定できないが、特定のクラスで多数の有症者が発生していることなどから、この事例は教室内の吐物による汚染を原因とする感染症が疑われる事例であった。

事例3・弁当調製施設を原因とする食中毒事例:6月14日A事業所から、12日に配達された弁当を喫食した社員5人中4人が13日〜14日にかけて、下痢、嘔吐等の症状を訴えていると、保健所に届出があった。調査したところ、弁当調製施設Bが12日に調製した昼食の弁当を喫食した 124人中62人が、同様の食中毒症状を呈していることが判明した。また、その後の調査で14日に調製した昼食の弁当を喫食した314人中25人も、同一症状を呈していることが判明した。主な症状は下痢(74人)、嘔吐(47人)、発熱(45人)で、平均潜伏時間は32.6時間(12日調製分)および34.7時間(14日調製分)である。

有症者便44検体、調理従事者便8検体、検食等15検体、手指および器具ふきとり19検体の合計86検体について食中毒の原因となる細菌およびノロウイルスの検査を行った。

検査の結果、有症者便39検体、調理従事者便5検体および井戸水1検体の合計45検体からノロウイルスGIIを検出した。井戸水を再検査したがノロウイルスは検出されなかった。

検査結果および共通食事等から、12日および14日調製の弁当を原因とするノロウイルスによる食中毒事件と断定され、原因食品については、疫学調査により焼そばと推定された。

まとめ:京都市では例年発生例のなかった6月にノロウイルスを検出した事例である。ノロウイルスが原因となる事例は冬季に多発するものであったが、有症者の症状や発生状況によっては、今後冬季以外のノロウイルス発生も考慮に入れる必要があると感じられた。また、ノロウイルスによる集団事例は食品を介して伝播する食中毒であるのか、人から人へ伝播する感染症であるのか、早期に判断して対応することが必要と感じた。

京都市衛生公害研究所・臨床部門
原田 保 改田千恵 木上喜博 小石智和 辻 尚信 山野親逸

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