2004年8月〜9月にかけて、福井市内の一医療機関において流行性角結膜炎の流行がみられ、12名の患者から結膜ぬぐい液13検体を採取して検査を行った結果、アデノウイルス(以下Ad)37型とAd8型を検出した。患者の診断名は流行性角結膜炎11名、咽頭結膜熱1名であり、いずれも医療機関で行った迅速診断(アデノチェック)で陽性〜強陽性を示した。
臨床症状は流行性角結膜炎の患者は角結膜炎の他、リンパ節腫脹および咽頭痛であり、咽頭結膜熱の患者は結膜炎、咽頭痛、発熱であった。
検査は遺伝子検出法と培養細胞を用いたウイルス分離−中和試験とを併用した。遺伝子検出法は、DNA Extractor Kit(和光)を用いてDNAを抽出して、Ad型特異的PCR法とPCR-RFLP法を行った。Ad型特異的PCR法は、病原体検査マニュアル1)に記載されたAd8とAd37を検出するプライマーを用いて常法に従って行った。PCR-RFLP法は加瀬ら2)の方法に従った。Ad型特異的PCR法とPCR-RFLP法によりAd37が9検体(9名)、Ad8が4検体(3名)とすべての検体からAdが検出された。検体は臨床検体と細胞培養上清の両方を用いたが、すべて臨床検体からも検出できた。
ウイルス分離はCaCo-2、HEp-2、Vero-E6、MRC-5の4種類の細胞を用い、Ad様のCPEが現れたものについて、国立感染症研究所分与の抗血清を用い中和試験を実施した。その結果、CaCo-2で12検体、HEp-2で5検体、MRC-5で3検体の、のべ12検体にAd様CPEが現れた。そのうちの11検体につきCaCo-2およびHEp-2で中和試験を行い、Ad37が8検体(8名)およびAd8 が3検体(2名)同定された。いずれも遺伝子検出法による結果と一致した。ウイルス分離率はCaCo-2が最も高く、同定も容易であった。
Ad37やAd8は一般的にCPEの出現が遅いといわれる。今回のように、迅速診断で強陽性を示した患者の検体でも、CaCo-2やHEp-2で1週間ずつ培養した3代目に弱いCPEが出現して、4〜5代目にようやく同定可能なウイルス力価に達した。一方遺伝子検出法では、臨床検体から検出可能であったこともあり2〜3日で結果を得ることができた。
この時期に近接する別の医療機関においても流行性角結膜炎の患者が発生していたとの情報はあるものの、福井県の感染症発生動向調査における報告患者数の増加はなかった。Ad37とAd8による流行性角結膜炎の流行は狭い範囲の1地域にとどまり、拡大することはなかったものと思われる。
文 献
1)地方衛生研究所全国協議会・国立感染症研究所:アデノウイルス性結膜炎の検査、診断マニュアル
2)加瀬哲男他, あたらしい眼科 10(1): 91-95, 1993
福井県衛生環境研究センター
中村雅子 東方美保 松本和男 堀川武夫
山岸眼科クリニック 山岸善也