エンテロトキシンA〜E非産生の黄色ブドウ球菌が原因と推定された家庭内食中毒事例−仙台市

(Vol.26 p 20-21)

2004年6月、自宅にて食事をした5名が、摂食後2〜3時間で嘔吐などの症状を呈しているとの通報が仙台市内医療機関より管轄の保健所にあった。調査の結果、発症者5名全員が自宅で自家製のり巻を摂食しており、他に外食等はなく、同様の症状を呈していることから家庭内の食事が原因と推定され、発症者糞便、食品残品、発症者吐物について食中毒菌検査を行った。食品残品、発症者吐物については黄色ブドウ球菌エンテロトキシン(SE)の検出も試みた。

検査の結果、発症者糞便5件中5件、食品残品4件中3件、発症者吐物3件中3件より黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus )が検出され、食品残品中の菌量は、昆布の煮物200,000cfu/g、鮭フレーク100cfu/g、のり巻>300,000cfu/gであった。のり巻については、菌量測定時の希釈段階が低かったため106cfu/gまでしか定量できなかったが、目視より、実際は108〜109cfu/gのオーダーであったと推定された。また、昆布の煮物とのり巻からはセレウス菌も検出されたが、発症者由来検体からは不検出であり、生化学性状等も同一ではなかったため、食中毒の直接の原因とは考えられなかった。食品残品、発症者吐物中のSE検出にはエンテロトックスF(デンカ生研)、バイダスSET2(日本ビオメリュー)を用いたが、SEA〜SEEのいずれも不検出であった。検出されたS. aureus はいずれも、コアグラーゼVII型で、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)のパターンも一致していたが、エンテロトックスFによるSE産生試験ではSEA〜SEEのいずれも非産生であった。また、これらの菌株はPCR(TaKaRa)でもsea〜see 不検出であった。(表1)。

患者の発症状況および菌の検出状況より、今回の食中毒の原因はS. aureus であることが強く疑われた。また、SEはこれまで、SEAからSERまでの存在が報告されており1)、seg、sei 保有S. aureus による食中毒事例も報告されている2)。そこで、検出されたS. aureus の、SEA〜SEE以外のSE産生性および遺伝子の保有状況をmultiplex PCR法を用いて解析した。その結果、すべての菌株は同一のSE遺伝子型(seg、sei、sem、sen、seo )を示した。しかし、SEG、SEIの産生性をSandwich ELISA3)を用いて調べたところ、検出限界(10ng/ml)以下または少量(10〜20ng/ml)であった(表2)。SEM、SEN、SEOについても、seg、sei、sem、sen、seo は1本のmRNA上に5種類のSEがコードされているpolycistronic mRNAとして、転写されることが報告されていることから4)、同程度のSE産生性であると考えられた。ごく少量のSEによって食中毒が引き起こされたのか、またはこれらの菌が、SEG、SEI、SEM、SEN、SEO以外の未知のSEを産生するのかなど、病原因子を確定するためには今後さらなる解析が必要である。

以上のことより、本事例は既知SEA〜SEEを産生しないS. aureus による、稀な食中毒事例の一つであると考えられた。今後もこのようなS. aureus に関する情報収集や、事例報告等でデータの蓄積に務めることが重要であると思われた。

 文 献
1) Omoe K et al., Infection and Immunity 72: 3664-3667, 2004
2)竹田義弘ら,広島県保健環境センター研究報告, No.9, 31-37, 2001
3) Omoe K et al., J Clin Microbiol 40: 857-862, 2002
4) Jarraud S et al., J Immunol 166: 669-677, 2001

仙台市衛生研究所
牛水真紀子 高畑寿太郎 熊谷正憲 吉田菊喜
岩手大学農学部獣医学科食品安全学研究室
重茂克彦 品川邦汎

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