神戸市北区における流行性耳下腺炎の流行

(Vol.26 p 42-43)

流行性耳下腺炎は、パラミクソウイルス科のムンプスウイルスによる感染症で、小児期に好発する。予後は一般に良好であるが、無菌性髄膜炎、睾丸炎・卵巣炎、膵炎など種々の合併症を引き起こすことがあり、時に高度難聴などの後遺症を残す。

2004年11月1日〜12月20日までの間、神戸市北区の小児科定点から、61名の流行性耳下腺炎患者発生が報告された。臨床症状は、38℃前後の発熱、耳下腺および顎下腺の腫脹などで、典型的な流行性耳下腺炎の症状を呈していた。当研究所は医療機関の協力を得て、流行性耳下腺炎と診断された子どもたち61名から採取した咽頭ぬぐい液および唾液について、PCR 法による遺伝子検査およびウイルス分離検査を実施した。

Vero-E6細胞に接種後、19名の検体で細胞変性効果(融合巨細胞の形成)が確認され、ムンプスFA試薬を用いた直接蛍光抗体法によりウイルスの同定を行った。また、細胞変性効果が認められなかった42名の咽頭ぬぐい液および唾液については、PCR法による遺伝子検査を実施した。そのうち、18名の検体からムンプスウイルスの遺伝子が検出された。ウイルス分離およびPCR法によるムンプスウイルス検出数は37例で、検出率は61%であった。

ウイルスが検出された37名のうち、2歳児は2名(5%)、3歳児は2名(5%)、4歳児は5名(14%)、5歳児は11名(30%)、6歳児は10名(27%)、7歳児は6名(16%)、8歳以上は1名(3%)であり、4歳〜7歳までの患児が32名(86%)と8割以上を占めていた。発生分布から見ると、A小学校9名、F幼児園9名、S幼児園5名、K幼児園4名であった。また、家族内での二次的な発症は5名、散発は5名であった。これらの状況から、ムンプスは幼稚園および小学校の集団内で流行していることが推測される。また37名のうち、ムンプスの予防接種を受けたのは1名、接種歴不明は2名、残り34名は予防接種を受けていなかった(表1)。

弱毒ムンプスワクチンは1981年に導入されたが、費用の支出を伴う任意接種であるために、接種率は必ずしも高くない状態が続いている。1989年4月から定期接種として無料のMMRワクチンを選択することが可能となり、神戸市のMMRワクチンの接種率は85%であった。しかし、MMRワクチンは無菌性髄膜炎の多発により、神戸市では1991年9月に原則として中止した。その後のムンプスワクチンの接種率については正確に把握されていないが、ワクチン供給状況から1/4の幼児が接種しているのにすぎないと推測している。

今回発生したムンプスの集団内での流行は、ワクチン接種率の低さが一因と考えられる。ムンプスサーベイランスの長期成績では2〜3年の間隔をもって2年余にわたって流行する傾向がある。最近では2000年後半〜2002年前半にかけて全国規模の大きな流行があったことから、2005年〜2006年にかけて再び流行する可能性があると推測される。この流行を阻止するためには、ワクチンの接種率をあげることが急務である。

神戸市環境保健研究所・微生物部
飛澤笑山 奴久妻聡一 秋吉京子 須賀知子
にしむら小児科医院   西村清子

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