青森県における5年間(2000年〜2004年)のつつが虫病の発生状況と、PCR法によるリケッチアOrientia tsutsugamushi (O. tsutsugamushi )遺伝子検出の有用性について検討したので報告する。
過去5年間では、6月(22件)と11月(12件)に2峰性のピークを示した。年間の発生数では、2001年の19件が最も多く、2000年の14件と続き、毎年10件前後の発生が確認されている。また、男女比では男25人に対し女36人と女性が11人多く、その原因は不明であった(表1)。
地域的な発生件数を保健所別報告数でみると、八戸地域が18件、青森、上十三地域が13件、五所川原が12件、弘前、むつの順に4件と1件で、県内全域においてツツガムシ感染の危険性はあるものの、八甲田山を挟んで八戸、上十三の太平洋側で多いことが確認された(表2)。
当センターでは、Karp、Kato、Gilliamの3株を用い、Indirect Immunoperoxidase(IP)法による血清診断を行っているが、発病初期においては抗体が産生されておらず確認が困難な場合もあり、1999年から抗原遺伝子検出のPCR法を導入し、PCR可能な検体が確保された場合、両法を実施している。
PCRの有用性については、2001年に2事例を経験しているが、2004年11月に依頼のあった1事例において再確認したので紹介する。
患者は、29歳・男性、自衛官。青森県立中央病院(県病)初診の3週間前に野外訓練を行っていた。初診数日前から38℃台の発熱と発疹があり、近医にてセフェム系抗菌薬内服を含む治療を受けていたが軽快しないため、県病を受診し、初診時40℃前後の発熱、ほぼ全身に爪甲大までの紅斑が多発しており、左肩に刺し口と思われる黒色の痂皮を伴う発赤がみられた。これらの臨床症状からつつが虫病を疑い、入院のうえ、直ちにミノサイクリン系抗菌薬の点滴静注を中心とした治療が開始され、同時に当センターに検査依頼があった。
結果は、抗体価がIgMで40〜80倍、IgGは80〜160倍と若干の上昇は認められたが、確定にはペア血清による有意差の確認が必要と考えられた(表3)。しかし、PCRによる遺伝子検出でO. tsutsugamushi Karp株の230bpの増幅DNA遺伝子が検出されたことによりツツガムシの感染によることが確認され、つつが虫病の診断が確定された(図1)。患者の病後経過は、諸症状が翌日から著明に改善し退院に至った。
以上のことから、早期診断には、抗体が産生される前や、抗体価が低く判定が困難な発病初期の段階においては、PCR法が有効であり、血清診断法と併用することが望まれるところである。
青森県環境保健センター・微生物部
三上稔之 石川和子 小笠原和彦 武沼浩子 阿部幸一
青森県立中央病院・皮膚科 竹本啓伸 野村和夫