カンピロバクターによる食中毒事例−静岡市

(Vol.26 p 44-45)

カンピロバクターによる食中毒は発生頻度が高く、厚生労働省の食中毒統計によると昨年は2,600人以上の患者が報告され、事件数から見ると第1位の食中毒起因菌である。こうした状況下、2004年の夏〜秋にかけて静岡市内でCampylobacter jejuni による集団食中毒を2例経験したのでその概要を報告する。

事例1:2004年8月26日〜29日に韓国に遠征した静岡市内のサッカーチーム20名(中学生16名、指導者添乗員4名)中14名が帰国直後から腹痛、下痢等の食中毒症状を呈し、うち2名が入院した。9月3日に保健所が医療機関より、患者便からカンピロバクターが検出されたと報告を受け、9月4日に当所に検体が搬入された。主な症状は腹痛(93%)、水様性下痢(100%)、発熱(79%)であった。

患者に共通する飲食は出国前にはなく、韓国遠征中の食事だけであった。遠征中の飲食はすべて共通で、朝食はホテルのバイキング、昼・夕食はレストランで焼肉、ビビンバ、クッパ、キムチなどを摂っており、水は市販のミネラルウォーターを飲んでいた。飛行機の機内食では同乗の他の搭乗者から苦情等はなかった。一番早い発症者は帰国日の29日の夜に発症し、12名が30日に、1名が31日に発症した。

当所には患者便13検体が搬入された。検体はCCDA培地で直接微好気培養(42℃)、プレストン培地で増菌微好気培養(42℃)を行った。CCDAに発育した典型的なコロニーをオキシターゼ試験を行い、陽性のものを血液寒天培地で純培養後、アピヘリコにて同定を行った。また同時にグラム染色、運動性の確認とカタラーゼ試験、馬尿酸加水分解試験(アピヘリコにもテスト項目あり)、酢酸インドキシル加水分解試験も併せて行った。今回の事例ではアピヘリコでのナリジクス酸(NA)感受性試験で耐性を示し、アピのプロファイルリストではコードなしの結果となってしまった。しかしながら近年C. jejuni はNA耐性株が増加している状況を考慮し、他のテスト項目や表1の形態および生化学性状からC. jejuni と同定した。13検体中6検体からC. jejuni が検出され、直接分離・増菌培養でともに検出されたものが5検体、増菌培養でのみ検出されたものが1検体であった。

本事例は海外で感染したと考えられ、疫学的情報も少なく、感染が考えられる期間に患者は飲食をすべて共にしていることなどから、原因食品は特定できなかった。

事例2:2004年10月7日、静岡市保健所清水支所が医療機関より10月3日〜4日に発熱、下痢、腹痛等の症状により受診した患者4名中3名からC. jejuni が検出され、これらの患者は9月29日〜10月1日にかけて富士宮市内の施設に宿泊した小学校の生徒であり、他にも患者がいる模様であるとの報告を受けた。この段階で学校、教育委員会から保健所への通報はなく、保健所は小学校に問い合わせて事実確認をした。その後の調査により、小学校で食中毒症状を示しているのは、当該施設に宿泊した5年生と教員のみで、その原因が学校給食とは考えにくく、宿泊中の飲食が原因と考えられた。最終的に発症者数は52人中35人(生徒34名、教員1名)であり、主な症状は発熱(86%)、下痢(74%)、腹痛(71%)、頭痛(77%)、嘔吐(26%)であった。

同じ期間に異なるグループが宿泊していたが、そのグループに患者はなく、有症者グループと他との異なるメニューは9月30日の夕食のみであり、それが原因食品と考えられた。潜伏期間は2〜7日間で平均84時間であった。

当所には10月8日に検便30検体が搬入され、試験方法は事例1と同様に行った。この事例で検出されたC. jejuni も事例1と同様にアピヘリコでのNA感受性試験で耐性を示し、アピのプロファイルリストではコードなしの結果となってしまった。しかし並行して実施した他の形態および生化学性状は事例1と同様の結果であり、アピヘリコの他のテスト項目も含めて判断し、C. jejuni と同定した。30検体中10検体からC. jejuni が検出され、直接分離、増菌培養でともに検出されたものが7検体、直接分離でのみ検出されたものが1検体、増菌培養でのみ検出されたものが2検体であった。この30名のうち20名が有症者で、そのうち8検体からC. jejuni が検出され、無症状者からも2件検出された。また当該施設のある富士保健所でふきとり、従業員の検便、飲料水、検食等の検査も実施したがC. jejuni は検出されなかった。

以上のようにNA耐性のC. jejuni の事例を続けて経験した。NA感受性試験はカンピロバクターの同定のキーとして利用されてきたが、近年のNA耐性C. jejuni の増加により、これを補うものとして酢酸インドキシル加水分解試験が推奨されている。酢酸インドキシル加水分解試験は当所でも実施しており、今回の2事例でも同定の一助となった。今後は迅速診断として遺伝子診断の必要性も感じ、PCR法の導入を検討し、事後ではあるがLintonらによるプライマーを用いて遺伝子検出を試みた(図1)。

最後に、資料を提供していただいた静岡市保健所清水支所生活食品衛生課、富士保健所の関係者の方々に深謝いたします。

静岡市衛生試験所
金澤裕司 井手 忍 福田桂子 清水浩司郎 北條圀生

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る