2004年2月、沖縄県中部福祉保健所(以下、中部保健所)および沖縄県衛生環境研究所(以下、沖縄県衛環研)は、日本人の同一家族内で発生した牛ひき肉の喫食に関連する大腸菌O157:H7感染の3症例を調査した。日米の複数の公衆衛生部局の協力により、米国本土と極東地域の米軍基地において、約9万ポンドの冷凍牛ひき肉が自発回収された。これは、日本の公衆衛生機関によって汚染が発見された、米国産牛ひき肉の初事例である。
症例は、検査確認されたO157:H7のサーベイランスを介して突き止められた。推定原因食品については培養、免疫磁気ビーズ法による菌分離、さらにPCR法により検査を行った。また、分離株は国立感染症研究所にて、PulseNetロトコルに準じてPFGEを実施し、結果は米国CDCのPulseNetに送信され、米国の分離株と比較された。
2004年2月17日中部保健所は、入院中の小児1例においてO157:H7検査診断確定の報告を受けた。症例は6日前に発症していた。聞き取り調査により、同胞1名が同様の症状を呈しており、家族全員が2月6日にハンバーガーを喫食していたことが判明した。有症の同胞、および無症状の家人1名からO157:H7が分離された。この家族が食べた冷凍ひき肉パテは、在沖縄米軍の売店で購入したものである。中部保健所が残っていたパテを回収し、沖縄県衛環研にて大腸菌O157:H7が分離された。沖縄県より疫学調査結果および検査結果の連絡を受けた在沖縄米国海軍病院が、未開封の同ロットのパテを売店から入手して検査したところ、O157:H7が分離された。症例を含む3名からの分離株、食べ残して回収されたパテ、および未開封のパテからの分離株のPFGEパターンは一致した。このPFGEパターンはこれまで、日本および米国PulseNetデータベースでみられなかったものであった。溯り調査の結果、同ロットのパテは米国の会社で2003年8月11日に製造されたことが突き止められた。同日に製造された生および冷凍のひき肉商品は、極東の米軍基地とカリフォルニア、アイダホ、オレゴン、およびワシントン州の基地、および小売店に出荷されていた。この調査の結果、米国農務省の食品安全検査機関は約9万ポンドの冷凍ひき肉、およびひき肉製品の自主回収を発表した。この対応により、新たな症例は発生していないと思われる。
MMWR編集注:この調査後、おそらく本事例に関連したと思われる新たな日本人1名と米国人2名の症例が確認された。本集団発生は、冷凍食品の中では食品媒介病原体が長期間生存することの重要性を示す事例であった。さらに、牛ひき肉における腸管出血性大腸菌汚染防止の必要性と、消費者が安全な調理のガイドラインを遵守することの必要性を示している。また、国際的な食中毒発生の可能性、国際的連携の必要性、標準化された分子疫学的手法の有用性、米国PulseNetの有用性が示されている。
(CDC, MMWR, 54, No.2, 40-42, 2005)