保育所における腸管出血性大腸菌O26集団感染事例−兵庫県

(Vol.26 p 73-74)

2004(平成16)年6月末〜8月にかけて兵庫県内の保育所で腸管出血性大腸菌O26:H11、VT1産生(以下O26)による集団感染の発生があったのでその概要を報告する。患者は2名の児童のみであったが、発症期間に約1カ月の開きがあったこと、不顕性感染が多かったこと、陰性確認後の再排菌が複数例あったことなどから、その対応に苦慮した事例であった。

初発患者は、保育所(児童118名、職員28名)の2歳女児で、6月27日から下痢(当初軟・泥状便、後に水様便、発熱は38.4℃)を発症し医療機関を受診(ホスホマイシン投与)、7月1日にO26が検出され、腸管出血性大腸菌感染症の発生届が最寄りの保健所にあった。その後、家族1名(保菌者)からO26が検出されたが、保育所児童の健康状況調査では特に下痢症状等を示しているものは無かった。また、全職員の検便、検食(保存食)、ふきとり検査からO26は検出されなかったことから7月12日で調査は終了した。しかし、7月27日に新たな患者(3歳男児)発生が届けられた[発症は7月23日、下痢(水様・血便)、発熱は38.2℃]。管轄の健康福祉事務所(保健所)は、集団感染を疑い全児童・職員の検便、検食、プール水等の検査を実施した結果、児童4名(いずれも保菌者、うち1名は初発患者からの再排菌)からO26が検出されたが、職員、検食、プール水等からは検出されなかった。その後、2家族3名(保菌者)からO26が検出された。これら8名の菌陽性者の菌陰性確認後、再度全児童および職員の検便を実施した結果、再排菌者2名、新たな保菌者2名(1名は再排菌者の兄)が検出された(表1)。健康福祉事務所は、それまでの菌陽性者は主に2歳児クラスに集中していたことから、2歳児クラス全員、保菌者およびその兄弟について菌陰性確認検査終了後、4名の保菌者について2週連続(1週間隔で2回)で検便を実施し、9月25日に対象児童の菌陰性化を確認し、集団感染が終息した。

児童(7名)および家族(4名)から分離された15菌株についてPCR法では、すべての菌株からVT1遺伝子および付着関連遺伝子のeaeA が確認された。また、12薬剤(ABPC、SM、TC、CTX、KM、CPFX、NFLX、GM、ST、CP、NA、FOM)すべてに感性であった。一方、制限酵素Xba Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の結果、13株(レーン2〜14)のPFGEパターンが一致し、同一児童由来の2株(レーン15, 16)は2本のバンドに差異が認められた(図1)。2004(平成16)年度に当研究センターへ搬入されたO26株とPFGEパターンを比較したところ、一致する株は無かった。一方、国立感染症研究所による全国のO26株との比較では、5月初旬の奈良県、鹿児島県、6月下旬の山口県、7月中旬の広島県での散発事例および7月初旬の鹿児島県での集発事例由来株のPFGEパターンと一致した。

本事例は患者2名、保菌者12名による集団感染であるが、職員、検食、ふきとり検査からO26は検出されず、PFGEパターンの一致などから2歳児クラスを中心とした二次感染によって広まったことが推測された。また、初発から約1カ月の期間をおいて次の患者が発生し、その後保菌者を多数認めたことから、無症状の場合の保育所施設および家族における二次感染予防の重要性が再認識させられた。一方、標準的な抗菌薬が投与されていたにもかかわらず、3名の児童から再排菌が認められたことで、過去にも再排菌事例が多数報告されていることからも腸管出血性大腸菌感染症における菌陰性化確認方法について検討する必要があると考えられた。また、全国の発生事例と時期およびPFGEパターンが一致していたことから、広域に流通する食品等の摂取により感染した可能性が考えられた。

兵庫県立健康環境科学研究センター
福永真治 辻 英高 西海弘城 山本昭夫 大嶌香保理 山岡政興
龍野健康福祉事務所
盆子原宗司 関めぐみ 小林ゆかり 大槻美幸 前田新造 平田きよえ

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