愛知県におけるHuman parechovirus(HPeV)の検出状況

(Vol.26 p 74-75)

Echovirus 22およびEchovirus 23は、1956年に子供の夏季下痢症の病原体として分離されたウイルスであるが、他のエンテロウイルス属とは血清学的および遺伝学的に異なることから、1999年にピコルナウイルス科(Picornaviridae )のパレコウイルス属(Parechovirus )として新しく分類された。パレコウイルス属にはHuman parechovirus 1(HPeV-1;旧Echovirus 22)、HPeV-2(旧Echovirus 23)の2つの血清型が報告されており、一般的には小児の感染性胃腸炎、呼吸器疾患患者から分離される。また、一過性の麻痺症状を示した患者よりHPeV-1、2型にも分類されない遺伝学的、血清学的に新しい型の報告がある1)。

わが国の感染症発生動向調査事業で調査される検体から分離されるウイルス全体のうち、エンテロウイルス属は約30〜50%を占めているのに対し、パレコウイルス属は3%以下と非常に検出率は低く、また、疾患との関わりも明白にはされていない。

2004(平成16)年度(2005年1月末現在)、愛知県では細胞培養法およびRT-PCR法により、906名中9名(1%)からパレコウイルス属のウイルスが検出されている。

その内訳は、HPeV-1型が7件、HPeV型別不能(新型)が2件であった。臨床診断名は、感染性胃腸炎が7名(7/184、3.8%)、不明発疹症が1名(1/45、2.2%)、手足口病が1名(1/65、1.5%)で、患者の年齢はすべて3歳以下、検体採取日はほとんどが9月〜11月(8/9)の秋季で、検出検体はすべて糞便材料であった(表1)。

当所では、感染症発生動向調査事業において採取された検体については、通常、Hela、Vero、RD-18S、MDCKの各培養細胞を用いて2代継代培養によるウイルス分離を行っているが、当所で今回(今年度)分離されたパレコウイルス属の9株中7株が、Hela、Vero細胞にてピコルナウイルス様のCPEを示していた。中和試験は国立感染症研究所から分与されたHPeV-1、HPeV-2抗血清を用いて実施した。また、中和試験で同定不能であった株については、RT-PCR法にてev22(+)(−)プライマー2)または、E23P1、HPV-N1プライマー1)を用い増幅産物の遺伝子配列をBLAST 検索で同定した。

パレコウイルス属は、地方衛生研究所で通常行われている細胞培養法(Hela、Vero、BGM )で検出されるウイルスである。年齢階層別の抗体保有状況を調べた報告によると、HPeV-1型は1歳以下で20%(2/10)、1〜2歳で89%(8/9)、18歳以上では97%(29/30)が抗体を保有しており2)、新型HPeVに対しても1歳以下で15%(3/20)、2〜3歳で45%(9/20)、20歳以上では73%(67/92)が抗体を保有していた1)。いずれも年齢が増加するに従って抗体保有率は高くなっており、比較的不顕性感染の多いウイルスであることが推測される。細胞培養にてピコルナウイルス様のCPEを示し、中和試験で同定不能のウイルスが分離された場合には、上記の特異的プライマーを用いるとパレコウイルス属の可能性が推測できる。新型を含めたパレコウイルス属のウイルスについては、検出数が少ないため特定の疾病との関わりは現在のところ明らかにできていないが、過去の未同定ウイルスの中にパレコウイルス属に含まれるものがないか調査中である。

 文 献
1) Ito M, et al., J Gen Virol 85: 391-398, 2004
2) Joki-Korpela P & Hyypia T, Clin Infect Dis 26: 129-136, 1998

愛知県衛生研究所・微生物部
伊藤 雅 山下照夫 小林愼一 佐藤克彦 秦 眞美 藤浦 明 榮 賢司

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