2004年12月に神奈川県域(横浜、川崎、横須賀、相模原市を除く)でノロウイルスを原因とする集団胃腸炎が9事例発生した。そのうち食中毒と決定されたものが4事例(表1)、施設内での感染性胃腸炎として取り扱われたものが5事例(表2)であった。
事例1〜事例4(表1)は、患者の共通の食事が当該施設での食事だけであったことや、患者の発症がほぼ同時期であることなどから食中毒と決定された。これら食中毒事例では、原因食品と思われる食品の残品はなく、食品の検査は行えなかった。
事例1では、12月17日に飲食店で150名が会食し、65名が下痢、腹痛、嘔吐等の症状を示した。患者の共通の食事がこの施設での食事だけであったこと、患者からノロウイルスが検出されたことから、この施設の食事によるノロウイルスを原因とする食中毒と決定された。この事例では疫学調査から和え物が原因食品と推定された。
事例2では、12月17日に飲食店で会食した153名中58名が下痢、腹痛、嘔吐等の食中毒様症状を呈した。この事例では喫食メニューにカキが含まれており、患者と調理従事者から検出されたノロウイルスの遺伝子群はGIのみが6例、GIIのみが10例、GIとGII両方が検出されたものが12例であった。
食中毒すべての事例で調理従事者からもノロウイルスが検出されたことから、カキを喫食した事例2を除いて、調理従事者が食品や調理器具を汚染した可能性も考えられた。
事例5〜事例9(表2)は、施設内で感染性胃腸炎が集団発生した事例である。発生施設は介護老人保健施設3カ所、病院2カ所で、検出されたノロウイルスはすべてGIIであった。すべての事例で入所者や入院患者とともに職員の発症が見られている。
事例9では、12月30日に職員1名の嘔吐・腹痛の症状を初発として、1月2日〜3日までに職員・入所者の9名に嘔吐・下痢などの消化器症状が続発し、その後10日までの間に合計17名に感染が広がった。職員が施設外からウイルスを持ち込んだと考えられた例である。
介護老人保健施設や病院では、入所者や入院患者の便の処理などを行う職員に感染の危険性が高く、施設内で感染が起こると入所者の間で感染が広がるとともに、職員の間でも感染が広がると考えられているが、事例9で示したように、職員などが外部からウイルスを持ち込むことがあるので、施設内に出入りする人達も注意が必要である。
施設内でのノロウイルス流行を防止するためには、職員の衛生教育を十分に行い、作業ごとの手洗いの奨励や、便の処理にはディスポーザブル手袋を使用し、容器や周囲の清掃と殺菌を徹底させることが重要である。
神奈川県衛生研究所・微生物部
古屋由美子 片山 丘 伊達佳美 高橋孝則 新川隆康