2005年1月にサルモネラ属菌の分類命名に関する国際裁定委員会の見解が発表されたので、簡単に内容を紹介する。これまでサルモネラ属菌の分類命名については、血清型による分類が先行したことから、混乱があった。特に感染症として重要度が高いチフス菌、食中毒の原因として主要なエンテリティディス、ネズミチフス菌等については、これらを種名として扱う時期もあった。1985年に仏パスツール研Le Minorらによる提案によって、これらの菌種をまとめてS. choleraesuis とし、サルモネラの血清型をS. choleraesuis の亜種choleraesuis のさらに下に位置づけることとなった。しかしながら、この種名(亜種名)が血清型名のCholeraesuisと混同されることなどから、その2年後にS. enterica という(亜)種名が提案された。S. enterica は今日では広く普及してきているものの、正式なものではなく、S. choleraesuis とどちらを正当なものとするか議論がなされていた。2002年に開催された裁定委員会でこの問題が取り扱われ、このたび、委員会による正式な見解が発表された。
その結果、今後S. enterica を正式種名とすることとなった。これに従うと、Salmonella enterica subsp. enterica が正式な記載方法となる。また、血清型の記載方法に関しては、本来菌種以下は命名規約が適用されないことから特段の規制はないが、感染研ではこれまでどおり、疫学成績の記載にはWHOサルモネラセンター(仏パスツール研)と同様の記載方法(下記を参照)を使用する。
例:
疫学成績等における記載方法:
Salmonella EnteritidisまたはS . Enteritidis
学術論文等における記載方法:
Salmonella enterica subsp. enterica serovar Enteritidis
文 献
1)Judicial Commission, Int J Syst Evol Microbiol, 55: 519-520, 2005
2)Tindall BJ, et al., Int J Syst Evol Microbiol, 55: 521-524, 2005
3)江崎孝行, 感染症学雑誌 76: 839-841, 2002
国立感染症研究所・細菌第一部
泉谷秀昌 廣瀬健二 田村和満 渡辺治雄