山口県における医療機関および食中毒事例由来Salmonella の血清型ならびに生化学的性状とファージ型の変化

(Vol.26 p 93-94)

Salmonella は、現在わが国における細菌性食中毒の最も主要な原因菌で、県内における本菌の疫学を知るためには、県内で分離される菌株の主要な血清型、生化学的性状、およびファージ型の変化を知ることが重要であると考えられる。

そこで、2002(平成14)年度から3年間に、県内の医療機関および食中毒事例で分離されたSalmonella の血清型を調べるとともに、Enteritidisについて、重要な生化学的性状であるリシン脱炭酸能(LDC)の保有率ならびにファージ型の変化を調べた。

 1.材料および方法

 1)供試菌株:2002(平成14)年度〜2004(平成16)年度12月までに医療機関で分離された55株(年度別供試菌株の内訳は、平成14年度が18株、15年度が11株、16年度が26株)および食中毒事件(保健所の保菌検査由来株を含む)から分離された 210株(年度別供試菌株の内訳は、平成14年度が74株、15年度が107株、16年度が29株)、計265株を用いた。

   2)血清型:定法により決定した。

 3)LDC:LIM培地およびIDテストEB20(日水)により調べた。

 4)ファージ型:供試菌株のうち、食中毒由来の血清型Enteritidis 78株を国立感染症研究所・細菌第一部に送付し、型別を依頼した。

 2.成 績

 1)各年度の主要な血清型:表1に医療機関、表2に食中毒由来株の各年度における血清型、分離菌株数およびその割合(%)を示す。いずれの年度においてもEnteritidis が多数を占めていた。

 2)各年度におけるLDCの変化:表3に各年度におけるLDC陽性株と陰性株の割合を示す。平成14年度においては、両由来株ともにLDC陽性株が7割〜8割を占めていたが、15年度、16年度と年度がすすむにつれて、しだいにLDC 陰性株が増加し、16年度では医療機関由来で8割、食中毒由来株では100%であった。

 3)各年度におけるのファージ型の変化:最優勢血清型であるEnteritidisのうち食中毒由来株のファージ型の変化を表4に示す。14年度においては、ファージ型4が100%で、平成10年度からと同様、県内の主要ファージ型で、その他のファージ型はまったく認められなかった。しかし15年度では、ファージ型4が依然として優勢ではあるものの、県内ではこれまで確認されたことのない新たなファージ型14bおよび29がそれぞれ27%、6.7%認められた。さらに16年度では、供試菌株は11株ではあるが、すべてが14bとなっており、14年度の優勢型であるファージ型4は分離されなかった。なお、県内で分離されたファージ型14bはすべてLDC陰性であった。

 3.考 察

最近3年間に、県内の医療機関および食中毒事件から分離されたSalmonella の血清型、LDC、ファージ型について調べた結果、血清型はいずれの年度もEnteritidisが圧倒的に優勢であり変化は認められなかったことから、全国的傾向と同様、山口県においてもSalmonella 感染症の最優勢血清型と考えられ、この傾向はしばらく続くものと推察される。

しかし、県内で分離される血清型Enteritidisの性状、特にLDCにおいて、近年大きな変化が起こっていることが明らかとなった。LDC陽性という性状は、現在においてもSalmonella の同定、特にCitrobacter との鑑別において重要である。しかし、県内で分離されるEnteritidisにおいては確実にLDC陰性株が増加し、平成16年度はすべてLDC陰性株となった。LDC陰性株は、山口県だけではなく、数府県において認められており(私信)、今後さらなる拡大が推察される。どのようなメカニズムでLDC陰性株が出現したのかはいまだ明らかではないが、LDCに関係した遺伝子の中で重要な働きをするといわれるcad Aは保有していることから、その他のいくつかのLDC発現関連遺伝子の変異もしくは、脱落が推察される。今後,このメカニズムを明らかにしていくことが重要な課題と考える。

また、疫学調査に重要なファージ型においても、近年大きな変化が起こっていることも明らかとなった。すなわち、平成10年〜14年度まで、県内分離株の中で優勢であったファージ型4が、平成16年度には分離されず、代わって、平成15年度に初めて確認されたファージ型14bが優勢となりつつある。これまで分離されているファージ型14bはすべてLDC陰性株であり、これまで県内になかった新しいEnteritidis のクローンの侵入が示唆された。

稿を終えるにあたり、ファージ型別を行っていただいた、国立感染症研究所・細菌第一部の渡辺治雄部長ならびに泉谷秀昌先生に深甚なる謝意を表します。

山口県環境保健研究センター
富永 潔 工藤恵美 冨田正章 松村健道
山口県岩国健康福祉センター 矢端順子

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